天井裏の顔
築数十年たつ我が家はいろいろとガタが来ている。中古の家を格安で購入したので、仕方がない。近所の噂では、前住んでいた人は老人だったという噂だが、定かではない。さらに最近にはネズミが天井裏をドタドタと走り回り、運動会を開くようになって来た。
古いだけに、ネズミの徒競走の音も響く。いい加減うるさいと家人にいわれたので、仕方なくネズミ退治の超音波を出す機械を仕掛けることにした。
どれくらいの効果があるかはわからないが、だめなら別の方法を考えるだけだ。
調べると押し入れの上から天井裏に上がることができるようだ。梯子を使い、押し入れの天井にある板を押し開くとカビとほこりが混じった匂いが鼻につく。
ほこりっぽいのでマスクをつけ、ヘッドライトを頭につける。帽子のようにかぶるタイプのヘッドライトで、USBを使って充電する。
梯子を上って天井裏に入ると、思ったよりも広かった。むき出しの木材の上によじ登ると周りを見渡す。頭のヘッドライトから明かりが日光が差し込まない空間をわずかに照らした。
天井の裏地には指よりも小さく、大きめの米粒を思わせる黒いネズミの糞が点々とちらばっている。さらにネズミの尿のしみも見出すことができた。
気分が悪くなってきた。運よく天井裏にコンセントを見つけることができたのでネズミ捕りの機械をしかける。大きさは手のひらサイズ。青いランプが明滅し、ネズミ除けの超音波を発していることを示しだした。
コンセントがなかったら、長い延長ケーブルを天井裏に持ってくるつもりだったが、都合がいい。
「ニャー」
うちの食客にあたる黒猫が軽やかに梯子を使って天井裏に上ってきた。どうやら押し入れの扉が開いていたので、興味をそそられたようだ。これは都合がいい。猫の匂いを天井裏にまき散らしてもらおう。
猫が天井の裏地を歩くと、ギシギシと軋む音がする。猫の目はわずかな明かりでも問題ないように見える。ネズミはいないのかと、ふと奥の壁に目をやった。
ぼんやりとヘッドライトの灯りが壁を照らし返す。味も素っ気もな木の面が明かりに浮かび上がった。
ふと何か丸い物が映る。ぼんやりとした光に照らされて、苦悶の表情を浮かべた老人の頭が、天井の裏地から首だけ生えるように飛び出していた。
「ひっ」思わず悲鳴を漏らした、次の瞬間。
黒猫はその老人の首めがけてとびかかった。
ドタバタという音とともに、ほこりが舞い上がる。
瞬きする。例の顔は消え去り、代わりに猫がネズミをくわえて戻ってきた。こちらにすり寄る猫を撫ぜた。
天井裏から降りて、猫におやつをあげながら、渡された戦利品をこっそり始末する。
先ほどの顔を思い出す。あれはいったい何だったのか?
次に天井裏に上っても老人の頭をみることはなかった。猫がネズミと一緒に追い払ったと勝手に思っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます