笑う女
とある用事で繁華街に出かけた帰り、おもったよりも遅くなった。
電車の中では人がすくなく、椅子に座ることができた。
向かい合わせになった正面の席には、人が数人座っており、両端は席が埋まっていたが、端のとなりは空き席になっていた。
右端には若い女性が座っていて、スマホを弄っていた。人ひとりが座れるくらいの空席を挟んで隣は初老の男性が座っている。
「あはははははは」突然、童女を思わせる笑い声が響いてきた。
年の頃は30年代くらいだろうか? やや色黒の肌を持つ小太りの女性が電車内に入ってきた。
女性はチェックの長袖の服と、ジーパン、紐のない青い運動靴を履いて、ショルダーバッグをつけている。一瞬目があったが、輝くような綺麗な瞳だった。
意味のわからない繰り言をつぶやきながら、目の前を通り過ぎ、開いている席に腰掛けた。スマホを弄っていた女性が眉をひそめて、たちあがると別の車内に歩き去っていった。
笑い声はやたら響き渡り、言いしれない雰囲気が車内に漂った。
笑い声をあげる女の隣の席の男性は意にも介さない。まるでそんな女などいないかのようだった。
さらに、別の女性が端の席に腰かけたが、次の駅にたどり着く前に立ち上がり立ち去った。
車内を見渡すと、特に他に気にする人はいない。
何やら判読不能の言葉が車内に響く。
次が降りる駅なので立ち上がる。笑う女は笑いながら甲高い叫び声をあげた。
そくささと車内をあるくと扉をくぐり、駅のホームに降り立った。
電車の扉が閉まり、ゆっくりと走り出す。
ふと振り返ると、窓の向こうの車内に笑う女はいなかった。特に立ち上がった気配もなかったし、この駅に降りた人間にその女はいない。
結局、何者かはわからなかったが、耳の奥にあの笑い声がまだのこっている。
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