七章

地下道の落書き

 通勤途中に線路の下を通る道があり、歩いて一分くらいの道で、むき出しのコンクリートでできている。

 灰色っぽい武骨な壁で、よくみると薄く罅が入っている。

 なんとなく持ち合わせていたメモ用のペンで壁に『た』という文字を書いてみた。特に意味はない。

 周りには誰もおらず、薄暗い道を蛍光灯が照らしているだけだった。

 

 次の日、なんとなく出勤時壁を見ると、『た』の下に『す』の文字が追加されていた。

 誰かがノリの良い人物がいるようで、文字を足したらしい。

 帰りには『け』の文字が足されていた。

 それぞれが筆跡が違うので、別の人物なのだろう。

 この続きは『て』の文字かなと予想していると、スマホが震えた。取り出してメールを確認すると、顔を上げた。壁には指で書きなぐったような文字が追加されていた。『ろ』

 

 背筋が寒くなった。自分以外誰もここにはいない。

 次の瞬間、コンクリートの壁一面に、『たすけろ』の文字が一瞬で浮かび上がった。 

 

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