ちょっと奇妙な話集

明日の株価

　日記をつけるのが習慣になっていた。10年日記というアプリを使って日記をつけている。十年分記載ができ、十年前までの同日の日記が同時に見れるという特徴がある。

　今日が2021年1月1日として、2011年から2021年までの1月1日に書いた日記の内容が同じページに表示されるわけだ。

　これで、一年前の自分が何に悩んでいたかが分かるとか、忘れていることをおもいだすとかが売りらしい。

　日記といっても、たいして書くことがない。株式取引を始めたので気になる株価の動きを書いておくことにした。数年前の株価が分かると何かの参考になるかと思ったからだ。

　あとは精々、天気を書くくらい。適当に三行くらいで大体読んだ怪奇小説の名前を書いている。読む話は猿の手とか、主人公が悲惨なことになる話が多かった。

　日記はスマホで記入することもできる。

　職場の昼休みになんとなく日記を開いたが、間違えて明日の日付をタップしてしまう。なぜかすでに株価がかかれていた。日記は未来の日付も見ることができるが、普通空白のままだ。

　見たこともない株だ。日付がまちがっているとも思ったが、見間違いではない。なんとなく気になったので、その株をスマホを使って証券会社で買ってみた。

　ちょうど、底値で安いので買って下がったらすぐ損切すればいいという安易な考えだ。

　次の日、その株は暴騰し儲けることができた。

　未来の株価がかかれるのは奇妙だが、あまり深く考えずに買っている。危険なので少額の金しか買っていないが、それでもかなりの金が儲かった。

　日記を見ると、明日の日付で強烈に値上がりする株が掲載されていた。かなり高値になっているが、翌朝はさらに数倍に上がるらしい。

　ちょうど全資産を突っ込めば、大儲けできる。

　今まで、儲かってきたのだ。全資産を突っ込んで買えば……。

　日記に書かれていた株は逆に大暴落し、買った人間は大損した。なんでも仕手という株価をわざと吊り上げる奴らがいて、株価を吊り上げ売り抜けたためらしい。

　自分は株は買わなかった。もし買えば朝一から大暴落し、大損していた。

　ふと、読んだ怪奇小説の筋をを思い出したのだ。大体、うまい話は落とし穴がある。いい気にさせて大きく賭けさせて、大損させて破滅に追い込むというのはよくある話だ。

　それ以降、未来の日付に株価がかかれることはなかった。

　このことは教訓として日記に書いておき、十年後に読み返すことにしよう。