だだ評価を消しただけなのに

 とある小説投稿サイトにアカウントを持っている。投稿サイトといっても読む専用で書くことはなく、気に入った話にレビューを書いたり、評価をつけることが主だ。

 小説はもっぱら適当な語句を検索して、引っかかったもの読むことにしている。

 何となく、『死人』というワードで検索すると、『死者が書いた話』という小説がヒットした。

 面白そうなのでよんでいくと、とりとめもなく死人が見たどこかの部屋の風景を描いているという形の話で、視点が興味深かったので評価を入れてみた。

 話は数話ごとに投稿されており、まだ完結していない。

 その投稿サイトは星という形で評価を入れることができ、小説を構成する各話のリンクが載っているページの最後にある星マークをクリックすると、作者に高評価を伝えることができるわけだ。すべて完結するとそのページには完結と表示される。

 自分は完結しない話は評価しないという考えだが、完結すると信じて評価を入れた。


 それからしばらく覗いてみても更新されておらず、更新日をみると半年くらい放置しているので、これはもう更新されないと判断し評価を取り消すことにした。

 星は削除と書いているリンクをクリックすると取り消すことができる。

 また、つけることもできるので、完結したらまたつけたらいいかという軽い気持ちだった。

 ちなみに評価をつけた人は自分一人だけで、これで評価なしとなる。


 それから別の話に移動すると、すでにレビューが書き込まれていた。『死者が書いた話の作者です。どうして、評価を消したのですか。何か気に入らないことがありました? 理由を教えてください。なぜですか。私が気に入らないのですか? 教えてくれたら直します。あ、放置したと思ったんですか、話はきっと書きますから』

 死者が書いた話などとは全く関係もない話で、なぜかこちらに対する書きこみがされているのが気味が悪い。

 レビューをせずに別の話に移動する。そこにもすでに書き込みがあった。『どうして無視するのですか? 教えてくれないのですか? 意地悪ですか?』

 背筋が寒くなってきた。作品とは全く関係ないレビューなので作者が消してくれると思うが不気味だ。

 ブラウザを閉じると、メールの通知音がした。メールには『どうしてブラウザを閉じるのですか? がんばって更新したんです。読んでください……』

 送信元のメールアドレスを確認した。文字化けして訳が分からない文字の羅列になっている。

 本文は途中からわけのわからない文字になっていた。

 最後まで読まずにメールをすぐ削除する。


 『なんでメールを削除するんですか。ひどいです』部屋に女とも男ともつかないか細い声が漂う。

 ガンガンと窓をたたく音がする。ここはマンションの三階の部屋だ。自分以外、誰も部屋にはいない。どこかからささやく声がする。「ねぇ。ねぇ。ねぇ。どうして……。評価を……。教えてくれないならこちらから……」

「うああああああ」恐る恐る声が聞こえる方を見た。窓に……。窓に……。

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