憎き金槌
隣の部屋から、何かを強烈にたたきつける音がした。続いて叫び声が響く。夜中なので驚いて目が覚めたが、それ以降何もないので再度眠ることにした。
次の日は休日で、昼くらいまで寝て起きると外に出た。
するとばったりと隣の部屋の住人と出くわした。引っ越し当時に挨拶しただけで、それほど面識があるわけではない。軽く会釈をした。
隣の部屋に住む男は、日に当たっていないのか色白ででっぷりと太っていて、汗を大量にかいて息を荒げている。
「こんにちは。今日は是非とも私の苦しみを知ってほしくて」
男は妙なことを言い出した。どうやら自分が部屋から出てくるのを待っていたような雰囲気だ。
男の右手が痛々しくはれ上がっていた。なぜか、左手に金槌を持っていた。にたりと笑って男がこちらを見やると、寒気がした。
その場を離れたいと思えてきたが、男は急に真顔になる。次の瞬間、その顔に突如怒りの形相を浮かべた。
いきなり手にしていた金槌を下にたたきつけた。金属がコンクリートに当たり固い音を立てる。
「この金槌が、この金槌が、この金槌ががぁああああああああああ」
鬼のような形相を浮かべ、男は金槌を足で踏みつけだした。
「俺の右手を傷つけやがって、痛いだろ。俺がどれだけ苦しんだと思っているんだああぁ」
あっけにとられた。頭が真っ白になる。意味が不明だ。金槌が勝手に動いてこいつの手にぶち当たったとでもいうだろうか?
「えっと、その金槌が何か……」かすれた声でそう問いかけると。男は薄気味悪い笑みをこちらに向けた。
「俺が右手をこの金槌でたたいたんだよ。痛かった。なんだこの金槌はぁ」
「え。貴方がたたいたんですか? ご自分で?」
「そうだ。みんな金槌が悪い。こんな痛い目にあわせやがってぇええ」
さらに男は物言わぬ金槌を踏みつけ続ける。
全身の産毛が逆立つような悪寒が走った。
まだ、契約期間が残っていて、違約金を払う必要があるが仕方ない。アパートを早急に引っ越すことにした。
次のアパートに引っ越すときは隣人には注意する必要があるだろう。
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