青はとまれ 赤は突っ走れ

 自転車で毎朝通勤しているが、職場の途中で左右に大量に車が行き来する国道がある。うっかり赤信号に引っかかってしまうと、一分以上待たされてしまう。遅れて家を出た場合、いらいらするほど赤信号が長い。

 その日は、余裕をもって家を出てさらに、国道の歩行者用信号機は青で余裕をもってわたることができた。

 渡った先の歩道は当然赤で、歩行者側では止まる前提となる。車の邪魔にならないように道の端に移動しようとすると、赤信号を無視して、初老の男性が自転車で突っ込んできた。あわやぶつかりそうになると、その男性は舌打ちして毒づくと、「気をつけろ。信号がみえないのか」と意味の分からないことを言い出した。

 自転車を降りてふりむき、そちらの方が赤信号なので止まるべきでは? というと、男は口元から泡を飛ばし、わめきだした。

 「赤は突っ走るものや。そっちがまちがってるんやぁ」

 目を血走らせて男は自転車に片足をついたまま、叫びだす。

 そのとき、国道の歩行者信号が点滅し赤くなった。

「赤やぁ。突っ走れぇ」

 男は自転車にまたがると、急に走り出した。

 すごい勢いで男は車走り来る国道に飛び出す。すさまじい急ブレーキの音が響いた。トラックに跳ね飛ばされて自転車と男は宙を舞った。

 自分は見なかったことにして職場に向かって自転車をこぎだした。きっと疲れて幻覚でも見たに違いない。

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