先回りするのっぺらぼう

 健康のために運動をすることにしている。といっても家近くの山道を登り帰るというだけのことだ。

 山道は、薄暗く夜になると闇が深くなる。昼はいいのだが、夕方になると見通しも悪くなる。ウオーキングにはいい坂道なのではあるがやや不気味だ。

 その日は、人もおらず、曇りで薄暗くなっていた。山道といっても舗装されていないわけでもなく、車一台通れるくらいの道の端に樹々が生えている。

 街灯はあるが、調子がわるいのか明かりをつけてはおらず、真っ黒い空なので雨が降り出す前に引き上げることにした。

 その時、見知らぬ女性らしい人がうずくまり、しくしくと泣いている。

 どうも、この世のものでもなさそうな気がしたので、声をかけず距離をとって通り過ぎた。

 

 しばらく歩いていると、またすすり泣く声がする。見ると、数十歩前の樹の根本で同じ女がうずくまっていた。

 追い抜かれている気配はない。これはのっぽらぼうという話そのままではないかと思い、無視して走り抜けた。がむしゃらに走り、アパートに帰りつくと扉を開ける。


 キッチンからすすり泣く声がした。冷蔵庫の前あたりで、例の女がすすり泣いている。

 人間ならここで警察を呼ぶべきだが、これはどう対処したらいいのかわからない。

 

 家を飛び出すと、夜道の街灯脇にすでにその女がうずくまりすすり泣いていた。

 もうどうにでもなれと腹をくくり、女に声をかけた。振り向いたその顔はもちろん……。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る