見えない人
奇妙な人をよく見かけるようになった。道を歩いていると何もいない虚空に話しかけたり、何もないところをよけたりしている。さながら人がそこにいるかのようだった。
透明人間がいるのかと思って触ってみると虚空だけで何もない。信号が青に変わり横断歩道を渡る。人は誰もいない場所をよけて歩く。不思議な感じだ。
道行く人に何故何もないところをよけるのかと尋ねてみる。その女性はこちらを見て、首を傾げて立ち去って行った。
無視されたと思ったので、今度は子供に語り掛けてみた。自分の目線より高い虚空に話かけていた子だ。普通にお父さんがいるよ? とその子供が返してきた。子供は手を振って横断歩道を渡っていった。
父親? そんな存在は見えていない。気になって横断歩道を渡りこちらに来る人にも聞いてみた。
大人の方は首をかしげるか、立ち去っていく。
さらに一人の男性に話しかけると、顔を恐怖に顰め、そのままこちらに向かってきて、こちらをすり抜けていった。
ふと気が付いた。自分が見えない人は、こちらにも全く気が付く可能性がない人だと。
視線を落とすと道路の端に花が置いてある。そこで、この交差点で車に跳ね飛ばされたことを思い出した。
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