ヨモツヘグリ
肥満が気になり、ダイエットを始めた。といっても簡単でひたすらたべないということだけだ。
一日一食から、何も食べない日もあった。耐え難い空腹が襲ってくる。そんなときには寝る前に大量の水を飲み、無理に眠ることにした。
腹の虫がなり、空腹で目が覚めることもあったが、何とか耐えしのんだ。
そんな食生活を続けて半年以上たった。
ずいぶんと体重も減ったので、もう食事を元に戻してもいいとも思ったが脂肪が付き、体重が増えることの恐怖は耐え難く、食べることができなかった。
そんなある日、いつものように仕事を終え、帰りの電車の中で、疲れのせいか、空腹のせいか意識が遠のいていた。
ふと、自分は見知らぬ古い家にいて、目の前には、刺身、吸い物、総菜、ごはんとおいしそうな食事が、何膳も湯気を立てておかれていた。
畳の上で正座し、卓に置かれた食事のおいしそうな匂いを嗅いでいた。とても現実とは思えないが、漆塗りの箸置きにおかれた箸を一膳とると、刺身をつまみ上げた。新鮮な手ごたえにみずみずしさが伝わってくる。
唾液が自然に漏れてきた。空腹は限界に近い。
体重が増えることに耐えがたい恐怖があり、手が震えたが、これは夢に違いないので、食べても太ることないだろう。口に運ぼうとした瞬間、何故か、直感的に食べてはいけない気がした。空腹は耐え難くなっているが箸をおく。
目が覚めると、病院のベッドの上だった。
医者の説明では、食事をとらないことのカリウム不足で心停止を起こしかけていたとのことで、酷く怒られた。
あのまま、夢の中で出された食べ物を食べていると、きっと助からなかっただろうと思う。
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