霊が見えると
この世に霊など存在しないと思っている。だが、存在しているかもと思い、有名な霊能力者をネットで調べて、片っ端からあってみた。大体手品か、バーナム効果、コールドリーディングと話術の類だった。
さらに調べて回っても同じだった。最後に一人だけ会おうと思い、東北のはずれまで赴いた。
人がいない山奥の廃村ちかくに一人で住んでいる奇人らしい。
彼に会った人はみな、本物と断言している。当人はネットも使わず、自給自足の生活をしているようだ。
何とか居所を突き止め、手紙を送り、アポを取ることができた。最近紙の手紙を使ったのは珍しいだろう。
うらぶれた感じの一軒家で、周りに誰もいない。家にはお札がところどころ、壁に張り付けられている。
引き戸になっている玄関をたたくと、中から出てきたのはおおよそ服を着替えていないのではと思える風貌の初老の男だった。服にもお札が大量に張り付けられている。
挨拶し、手紙を送った者だと自己紹介すると、中に招かれる。囲炉裏のある部屋は思ったより綺麗だった。だが、四方八方にお札が張っていて、不気味な雰囲気を醸し出していた。窓には分厚いカーテンがおおわれていて、家の中は薄暗かった。
男は、霊が存在することを証明できるが、後悔することになると告げた。一度知ると引き返せなくなるという。男の顔は真顔で冗談を言っている雰囲気はない。
ここまで来て引き返すことはできない。決意を伝えると男は数珠のようなものを渡してくる。これは男の念が含まれていて一時的に男の霊視能力が得られるということだ。
馬鹿馬鹿しいとおもいながら、首にかけた。おもったより重い。冷たい感触が伝わってきた。
何もおこらない。詐欺かとおもったが、男は首を振り、この家には結界が張っていて、霊は入れず、家に霊があらわれても外に放り出されるという。
家に霊があらわれるという言い回しは気になったが、その理由はすぐわかった。分厚いカーテンを開き窓を男が開けると、外には山積みになった虫、獣、人がひしめき合っていた。
男が飛んできた蚊をたたいてつぶすと、蚊は霊になり外に吸い出される。山のようにそそりたつ虫山に蚊の霊は吸い込まれた。
虫が人の形になって、窓をたたく。虫と獣が波のようにひしめきあっている。
悲鳴を上げて、首から数珠を外し男に返した。
男がこれで霊がいることがわかっただろ? 今まで死んだ存在は宇宙に届くくらいひしめきあっているのさ、と垢がまみれ狂気が滲む顔でいった。
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