遺伝子組み換え”る”作物
巷には遺伝子組み換え食品というのがあり、大豆、トウモロコシなどを虫から食われにくくしたとか、特定の除草剤に枯れにくくしたものだ。
大体、除草剤とセットで栽培するらしい。
という話だが、近所にあるスーパーを探しても使っている食品を見たことがない。
景気も悪く昼食代金も減っていったある日、昼休みをふらついていると、シャッターが閉まった店に挟まれて、薄汚れた店があった。入口近くに値札があり、見てみると、お代わり無料の定食が、なんと100円だった。
ただ、注意書きに遺伝子組み換え……使用と書いていた。
字はかすれてよみとれない。どうやら、遺伝子組み換え作物を使っているので格安らしい。
財布を開けた。札はなく、小銭が数枚あるくらい。背に腹は代えられない。
中に入ってみる。座ると足が歪んだ椅子が軋んだ。油でぎとついたテーブルに、塩やら調味料の瓶が金属のトレーに載っている。
不機嫌そうな初老の店員が注文を聞きに来た。ふと考えると遺伝子組み換え作物は作物であって、魚とかは問題ないのではないだろうか?
定食を見ると刺身定食がある。これなら問題ないだろう。刺身定食を注文する。
生臭い匂いを漂わせて、店員が厨房に戻っていった。彼が料理を作るのなら食べたくない気もするが、注文した以上後戻りできない。
何も言わず、店員が、定食のトレーをテーブルに置いた。愛想の欠片もない。
ただ、刺身は思ったより新鮮で、歯ごたえもある。味わったこともない魚だが、名前はわからない。
ライスをお代わりして、満腹になると眠気が襲ってきた。おかしい。まるで睡眠薬をもられたみたいだった。
気が付くと、水の中にいた。何かがおかしい。水の中なのに息ができる。
視界がおかしい。
自分は魚になっていた。手足もなくなっている。大きな水槽には別の魚が数匹泳いでいた。叫ぼうにも口からは泡が漏れるだけだった。
水槽の枠を隔てた向こうに厨房だ、そこには店員がいる。手には包丁を持っていた。
夢なら覚めてほしいが、そうでないなら、自分の運命はすでに決まっている。刺身となるのだ。
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