付喪神

 これは子供のころ、祖母に聞いた話だ。祖母はとにかく物を大事にする人で、自分が針やら、鋏やら使えるはずの道具を捨ててしまおうとすると、決まって道具にも魂があり、粗末にしてはいけないとたしなめたものだ。

 なんでも、物も長く年を閲すると魂を宿し、人になることができるという。おとぎ話のようなものだと考えて当時は聴いていたものだった。

 

 最近になり、実家に帰ると神棚に古びた針が置いてあるのを見つけた。なんとなく針を取り上げると浮いた錆びをぬぐうと元に戻しておいた。

 祖父もなくなっていて、実家も誰も住んでいない状態だ。祖父が亡くなった後、祖母は神隠しになってしまっている。

 噂では仲の良かった祖父の後を追ったのではという話だ。当時祖母がいなくなっても、不思議と寂しさは感じず、街の人が探そうともどこにも見つかることもなかった。

 

 どこかに引っ掛けたのか、袖がほつれていた。どこかに引っ掛けたのだろうか?

 夏の暑さのせいか、ここに来る前に歩いたためか、疲れがたまっている。

 畳に軽く横になる。うとうとしていると、見知らぬ女性がどこからともなくあらわれて、袖を繕ってくれた。見知らぬ人のはずだが、妙に懐かしい。

 

 目が覚めて、袖を見ると糸で袖口が繕ってある。

 この家には誰もいないはずだ。

 だが、懐かしい気配を感じる。


 実家を売却するのはやめにすることにした。

 今もたまに、実家に赴いている。

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