部屋によく来る猫

 近所に住み着いている猫がいる。飼い猫とかではなく地域猫に近い。人に慣れている猫で人間の部屋にも入り込んでいく。濡れたからすの羽を思わす漆黒の猫だ。

 住んでいるアパートは猫を飼えないことになっていて、猫を住まわすことはできないが、部屋に招き入れている。丁度一階なので部屋を開けると入ってくるので、猫に餌を食べさせたり部屋で寝させたりしている。

 クロスやらを引っかかれると弁償しないといけないが、この猫は妙に賢く壁をひっかくことはなかった。クロスをひっかかないようにと頼むと了承したように一鳴きする。

 管理会社も猫のことは知っているかもしれないが、見て見ぬふりをしているようだ。部屋を汚せば退去時に弁償させればいいと考えているのだろう。

 猫の爪とぎ板を買っておき玄関に置いておくと、家に入るときに爪を研ぐことは行っている。

 ある程度分別のある猫らしい。

 水だけは、何故か蛇口から飲むというこだわりがあり、風呂場の蛇口が閉まっていると、風呂場で待機して開けることを促したりする。

 とりあえず、水を飲み終わるとひと鳴きするので、蛇口を締める。

 外に出たいときも玄関に近づき出たい素振りをするので、扉を開けると素早く出て行った。仕事が終わり帰宅すると決まって扉の前に座って待っている。扉を開けて、中に招き入れ餌を与えるのが日課になっていた。


 ある朝、猫を部屋に招き入れ閉じ込めたまま、出かけてしまった。用事は長引き泊りとなり部屋に帰ったのは数日後となった。

 さすがに猫を閉じ込める時間としては長すぎると思い気をもみながら帰ると、部屋の扉の前に例の猫がいた。

 扉を開けると後から猫もついてくる。どうやって猫が出たかはわからない。なんとなくついてきた猫ににどうやって出たかと聞くと、窓が開いていたという。外に出た後で外から閉めておいたが、鍵をかけず出かけるような不用心はやめた方がいいと言われた。

 ん? 何か違和感があるが、猫に言われた通り鍵がかかっていなかった部屋の窓を施錠した。



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