心のふるさと
夢の中でたびたび見る風景がある。コンクリートの波止場に自分は立っており、黒い闇の渦に見える大海原を見つめていた。
満潮時は波止場の上まで波は押し寄せ、押しては引くたびに音を奏でていた。空は漆黒に染まり、月光だけが辺り照らしている。
海の中に吸い込まそうな錯覚を起こす。
目覚めても、その場所がどこかは判然としない。
実家に帰ったとき、めぼしい場所を探したが記憶の場所はどこにもなかった。風景は心に棘のように引っかかっていた。
実家で古い荷物を探していると物置の奥に古い本を見かけた。薄汚れた本で長い年月を閲しているのがわかる。表紙の字もよみとれない。
パラパラとめくると、本の半ばで記憶にある絵をみかけた。コンクリートの波止場で誰かが立っている。
見覚えがある子供の後ろ姿だ。すさまじい既視感が襲ってくる。
本を眺めていると聞こえてくるはずもない波の音が聞こえてきた。描かれているだけのはずの子供がゆっくりとこちらを振り向いた。さらに音が激しくなる。めまいがする。視界が回転するようにねじれ、回る。
子供の姿がゆっくりと浮かび上がった。絵本からにじみ出るように影があふれ出て、辺りを漆黒に染めた。
気が付くと、コンクリートの波止場にたって、黒く見える大海原を眺めている。ようやく心のふるさとに帰ってきたような気がする。ここは夢の中なのか、それとも本の中なのか、いずれでもないどこかなのか。それはもうわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます