エレベータに乗っている人
夜に飲食店でアルバイトしていた学生の頃の話だ。その店には寮があり、ふとした用事でその寮に忘れ物を届けることになった。
仕事が終わると早朝だ。そのまま店の近くにある寮まで赴いた。古びたビルとビルの隙間に建てられた寮は、もともとは倉庫だったと聞く。外観は人が住めそうな雰囲気ではない。オートロックなどありもしない入口の扉を開き中に入ると、古びた建物と人の体臭が混じったようなきついにおいが鼻につく。
目的の人物は二階に住んでおり、軋む床を歩き共同の台所を超えると、エレベータに行きついた。
この建物は昔屋上から、飛び降り自殺があったらしい。さらに孤独死も何人も出た。という噂もある。ドヤ街に近い場所に建てられた寮に住むような人間にそんなことを気にする者はいない。幽霊の目撃談はあるらしいが、むしろ寮費をただにしてくれるなら、幽霊とでも同居するという者もいるくらいだ。
エレベータが一階につき、扉が開く。保守点検をやっているかも怪しい。エレベータ内の灯りは明滅し、さらに薄気味悪さを醸し出している。
エレベータ内に足を踏み入れると、なぜか寒気がした。重量オーバーのブザーがなる。複数の黒い影が見えて、揺らめくように消えた。慌てて外に出る。おそるおそるもう一度足を踏み入れると今度はブザーはならなかった。壊れるくらい揺れながら、エレベータは上に移動する。ボタンの近くには色が変わって読めなくなった紙が貼ってある。恐ろしく長い時間がかかった気がして、ようやく二階についた。
二階も全く日の光は当たらない。さらに建物と人の体臭が混じった匂いがきつくなった。共同の便所からはわずかに排泄物の匂いが漂ってきている。
部屋をノックして出てきた相手に忘れ物を渡すと、今度は階段で降りる。あの重量オーバーのブザーはきっとエレベーターの不調だろう。そう思うことにした。
自分は、寮費無料でもここに住む気はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます