石を食らう男

  健康のため運動をしている。休日は自宅の周りを道に沿って走り、スポーツウエアを着て近くの公園を数周走って帰るのが日課になっていた。

 公園にたどり着くと、入り口に生えた樹の近くにあるベンチに、一人の見知らぬ男が座っていた。うらぶれた感じのサラリーマン風の感じで、日曜だというのにスーツを着てネクタイを締め、ぼんやりと地面を見つめていた。

 髪も整えられて、雰囲気もおかしくないはずが、なぜか異質の雰囲気があり、かかわらない方がいい気がした。

 男は地面に転がる黒い石を拾うと、急にかじり始めた。ばりばりと歯が砕ける音がして、男の口から血が滴り落ちる。さらに数個同じくらいの石を拾う。口を開くと血管にぶら下がった白い歯が飛び出した。

 息を飲む。あまりの事態に頭が働かず、ただぼんやりと男を見ていた。

 白いシャツは赤く染まっていく。さらにバリバリと音がする。さらに数個まとめて石を口に放り込んだ。石を噛みはじめる。すでに歯はすべて抜け落ちているのかもしれない。砕けた石の破片が口から零れ落ちていく。

 男は顔を上げ、にやりと笑った。毛虫が背中にはいずりまわるような悪寒がする。ひっと息がもれた。男の目つきは吊り上がり、焦点もおかしい。男は血が滴り落ちる口を開けて言葉を紡ぐ。

 「やあ、君もどうだい? ここのチョコはおいしいんだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る