宝石の中の人
友人の一人が、パワハラで退職し家で引きこもっている。親の遺産でお金には困っておらず、持ち家なので生活も困っていないそうだ。
ある日、LINEにそいつから結婚したという連絡が入った。驚いてそいつの家に行ったが、人の気配がない。部屋に上がると、綺麗に片付いている。机の上に置かれた石が目についた。七色に光る宝石で、おそらくオパールだろう。結婚の相手はどこかと聞くと、そのオパールを指した。
意味が分からず、一瞬立ちすくむと、オパールの中に黒い影が浮かび、それが人影に見えてきた。どうやらその人影が結婚相手だということらしい。いよいよ、おかしくなってきたのかと訝しく思っていると、オパールから愛をささやく声が夜な夜な聞こえると言い出す。
促されるまま石をとると、頭の中に何か声が聞こえてくる。寒気がして石を返した。声は洞窟の狭い隙間を吹き抜けるような音色で、どちらかというと不気味に聞こえた。そいつはうっとりとした表情で、そのうち愛しい人は宝石から、解放され一緒になれるとのことだ。
自分がその石は捨てた方がいいというと、そいつは首を振った。いとおし気にその不気味な石をほおずりし始める。
机に置かれた石の影はさらに深く濃くなり、名状しがたい雰囲気が漂っていた。何かにとりつかれたような友人にもおぞけが走り、お暇することにした。
それからどれくらい経っただろう? ふと例の友人の事を思い出した。連絡してもまったく既読すらつかない。嫌な予感がして家まで行くと、扉は開いていた。
人の気配は全くなく、薄くほこりが床に積もっていた。ゆっくりと部屋に入ると足下には砕けたオパールの破片が散らばっている。
それ以降、友人は行方不明になった。宝石の中に行ってしまったのか……。それともどこかに行ってしまったのか? 砕かれた破片はどういうことなのだろう? 気になって仕方ない。
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