蟻の巣

 最近は在宅勤務となり、部屋から出ることは少なくなった。仕事でパソコンに向かっていると、ふと床に小さな黒い点が動いているのが見えた。

 よく見ると、それは左右三本、計六本の足をもつ節足動物門、昆虫綱に属するいわゆる『蟻』だった。蟻は数匹床を歩き、お互い情報交換を行っているかのように接近したり、離れたりしていた。

 不思議なのはこの部屋でまったく食事もしておらず、甘い物も持ってきてはいない。蟻が食べられるものは何もない。

 特に気にせず、放置しておいた。噛みつく蟻は少ないからだ。


 外に出る用事があり、昼間に喫茶店によってコーヒーを飲んでいると、テーブルに蟻が歩いているのが分かった。掃除をしていないかと思ったが、その蟻は部屋で見たのと同じだった。同じ種類の蟻なのかもしれない。

 

 それから、職場に出勤してもどのような蟻が見掛けられる。薄気味悪くなったので、部屋で蟻の巣を探してみた。しかし見当たらない。蟻もどこから出てくるのかわからない。腕に違和感があり見てみると蟻がいた。つまんで捨てるとさらに数匹歩いていた。さらに風呂場でも、歩いていても腕に蟻が見つかるようになってきた。噛まない種類といっても、少しおかしい。

 

 ふと、長袖をめくって、腕を露出させた。蟻が歩いている。それを追うと、蟻は大きな黒子を思わせる腕の穴に潜っていった。



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