手放すと不幸になる

 街を歩いていると、突然フードをかぶりローブを着た男から、キーホルダーを手渡された。

しわがれた声で、謎の男はそれを失うと不幸になると言ってきた。

キーホルダは手のひらに乗るくらいの円形で、中には五芒星が描かれている。

突き返そうとしたが、男はあっという間に人混みに紛れて消えてしまった。

捨てようと思ったが、妙に不安になり実行することはできなかった。


 肌身離さずとは言われていないので、なくさないように部屋の机にほおっておいた。

それから、幸福が続き、昇給し、恋人ができた。

幸運がつみかさなるとともに、次第にそれを失う恐怖も増えてくる。

頭の中にべっとりとそのキーホルダーが住み着いていた。

失う恐怖で、いつもキーホルダーを確認してしまっていた。


 恋人が家に来た時、そのキーホルダーをこっそり持ち帰ってしまった。

恐怖に駆られて、問い詰めてキーホルダーを取り返すことができたが、ほんの些細なことだったそうだが、そのために別れることになってしまった。

会社でも不安が押し寄せ、仕事もままならない。

今は、キーホルダーは持ち歩いている。

家で盗まれてはかなわない。

今や、キーホルダーを失うと不幸になるということは自分の中で確信となっていた。

仕事の能率も下がり、だんだん、風あたりも強くなり、職を失うことになった。


 男を探し返そうと思ったが、見つからない。

キーホルダーを失うのが恐ろしく、家からでることもできなくなっていたある日、ネットで、例の男の記事が見つかった。

キーホルダーの話は、ただのジョークだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る