酔って帰ると

 数年前くらいだろうか、忘年会で盛り上がり、二次会、三次会と飲み歩き、わずかな理性で、終電で帰ることができた。

 アルコールが回り、ふらふらになりながら、アパートの階段を上がり玄関の扉を開けた。

 なぜか、灯りがついていた。不審におもう。靴を脱ぎ、部屋に入ろうとした。

「お疲れ様。遅かったわね」

水が手渡された。礼をいい水を飲み干すと、グラスを返す。違和感がある。アルコールが回って意識を保つこともできず、服を脱ぎそのまま、倒れこんだように眠り込んだ。

 次の日は休日で、昼まで眠っていた。割れるように痛い頭で昨晩の事を思い出す。

若い女が水を渡してきた記憶がある。台所の流しを見るとグラスがあった。

背筋が寒くなる。いまは付き合っている恋人もいないし、このアパートには女は住んでいない。

 一人っ子の自分には妹もいない。

 記憶には、昨晩の女の姿が焼き付いている。

 部屋を探しても何か異常はない。

 グラスを流しに置いたのは、断じて自分ではない。そもそもこのグラスに見覚えもない。

 寒気がした。

 今は、そのアパートから引っ越しているが、たまにひとりでいると得体のしれない気配がする。


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