削られた男

友人の一人に作家の男がいる。いつも編集から色々修正をするように依頼されて、大変だとぼやいていた。

先日のことを思い出す。

いつも彼とはリモート飲み会で話をしている。たびたび編集者の愚痴をしゃべっていた。

修正依頼は、とにかくキャラクターを削れという話で、仕方なく泣く泣く削っているという話だ。

小説を書かない自分などは、キャラクターを削るなど、文章だけの話だとおもっているが、友人としてはそうでもないそうだ。

そこで、キャラクターを削るという心情を聞いてみた。

「そうだな。登場人物を殺している気分だ。生きている人間の腹を切り裂き、胸骨を断ち、脈打つ心臓を取り出すような感じ。さらに自分の一部をえぐり取られる感じかなぁ」

彼はそう言っていた。

何か鬼気迫るものを感じて、押し黙る。

「それにこわいんだ。もしかして俺たちも小説の登場人物かもしれないじゃないか? 登場人物を消すと巡り巡って自分が消えるかもしれないって思えてきてな」

馬鹿馬鹿しい話だがな。と彼は笑う。

それならまるで、この世界が仮想現実だということではないか?

「小説で消すのは、話に必要ない。読者にとっても意味のない人物なんだ。俺は世界にとって必要なんだろうか?」

馬鹿馬鹿しいと言おうと思った瞬間、オンライン通話の画像が乱れた。


そこまで思い出すと、空耳か、悲鳴のようなものが聞こえた。

まるで、五体を裂かれたかような悲鳴だった。

……あれ、自分は何を考えていたんだろう?

誰かのことを思い出していたような気もするが……。


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