玄関にあるもの
仕事が長引き、夜遅くに家に帰ることができた。扉を開けて玄関に入ると靴を脱いでそろえる。
ふと足下をみると、玄関の端に見慣れない像が置いてあった。三十センチくらいの高さで、蛸か、烏賊を思わせる軟体生物の像だった。家に入り、居間で食事をとりながら家人に像について聞くと、知らないという。
何やら不気味な像だった。明日捨てておこうと思い、その日は眠りについた。
家人に像を捨てておくようにと依頼して、仕事に行く。帰ると玄関にまた同じ像があった。捨てるのを忘れたのかと思い仕方ないので、捨てておこうと像をとるとなぜか生暖かくぬるぬるしている。耳の錯覚か遠くから何か聞こえた気がした。薄気味悪いので袋に包むと朝に捨てようと庭に放り出しておいた。
次の朝、庭に放り出して出したはずの像が玄関にある。家人に聞いても確実に燃えないゴミに出したという。
気味が悪いので、休日に車で遠くの海に投げ捨てることにした。像をつかむとはっきりと頭の中に薄気味悪い声が聞こえてきた。唸り声だろうか、意味の通らないうめき声にも聞こえる。体の奥から何かが湧き出てくるような、吐き気がするような感覚、めまいがする。
ふらつくように車に乗ると海に走った。目的地ははっきりわかっている。崖の上から迷わず車ごと海に突っ込んだ。車に海水がしみ込んでくる。息ができなくなるのも時間の問題だ。完全に海水が満ち、車の扉が開かなくなる前に海中にでた。像だったものは別の生き物になっている。海水が肺に満ちるが不思議と息苦しくはない。
この像は、海に帰るために、自分に寄生したのか、それとも海が本来自分の帰る場所だったのか。それは今はわからない。
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