中抜きと吸血鬼

 少し前の話だ。当時、特定派遣というのがあった。

簡単に言うと、社員だが別の会社に派遣に行くというスタイルだ。

社員ではなく、時給ではたらく派遣は一般派遣といって区別していた。

派遣ではあるが、社員でもあるので安定しているということで、特定派遣の会社は紙を一枚提出するだけで、許可を得ることができた。

自分は営業職をやっていて、特定派遣で社員を別の会社に売るというう仕事をやっていた。

営業職なので、いろいろな付き合いもある。小さいながらいろいろな会社の社長とも付き合いがあった。

紙を出すだけで派遣もできるので、雇用もしていないのに、社員だということにして、別の会社に送り込み、中間マージンを抜くという会社もあった。

自分が雇ってもいないのに、紹介したという形にして、とある会社の契約社員ということにする。さらにまた違う会社に派遣にいくという形だ。

よく一緒に飲みに行く社長がまさにそういう形の中抜きをやっていて、マンションの一室が事務所だったが、当時羽振りは良かった。

でっぷりと太って、声もでかく。飲めばいつも愚痴と説教を垂れ流すという面倒な人物だったが、付き合いもあるので無碍にもできない。

 紙を右から左にながすだけ、すなわち人を複数の会社を通すだけで、お金が転がり込んでくるのだから、懐も潤うだろう。社員という宮仕えで、かつ足を使って、営業する必要がある自分とは違う。

それでも、その社長は、送り込んだ人物が問題を起こし、迷惑を被ったという愚痴を絶やさない。

社長が抜き取っているお金は元来、労働者に回るはずのものだ。当人はなんらかの手間と、リスクを払っているので、当然だと考えているようだが。

さながら吸血鬼のようだ。営業職をやっている自分もある意味同じ穴のムジナかもしれないので、あまり悪く言う気もなかった。

景気はよかったのはつかのま特定派遣がなくなり、一般派遣と一緒になり今まで紙を出せばよかった特定派遣が、二千万以上の資産が必要となった。

その社長はもちろんそんなお金はなく会社をたたんでしまった。誰かに会社を譲渡したという話だ。

さらに、別の会社を隠れ蓑として、商売をしていたようだが、悪い噂は恐ろしく早く伝わる。

悪名は鳴り響き、あまり、その社長を見なくなった。


 最近、その社長(いまは社長ではないようだが)を見かけたが、ガリガリに痩せていた。久しぶりですとあいさつし、当人に話を聞くと心筋梗塞を患ったそうだ。

その姿は、逆に血を吸われたようだった。

いや、今まで吸っていた血を吸い返されたのだろう。

 

  


 



 

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