地獄へ行く条件
生きている間は、さんざん人を殺して、悪事三昧の日々だった。
こうやって閻魔の前に引っ立てられ、審判をまっているが、どうせ地獄と決まっているだろう。
蜘蛛を助けて、地獄に糸を垂らされた話もあるが、実際は地獄の上に極楽があるわけではない。
しらばっくれようと思ったが、目の前に玻璃の鏡を突き付けられて、生前の悪事が映し出されている。
赤ら顔で、牙をはやした閻魔と思しき人物が、ぎろりとこちらを見た。
机に広がった帳面を閻魔は見る。
どうやらそれがうわさの閻魔帳というものだろう。
「さて、……よ」閻魔はこちらの名前を呼んだ。
どうやら、番号で管理されているというわけでもないようだ。
「何か申し開きはあるか?」
首を振る。嘘をついてもばれているのだ。黙っている方がいいだろう。
「お前はたくさん、殺生をしてきたが、それだけでない。助けた命もある」
命を助けた記憶などない。どういうことだ?
「殺した男は木こりで、生きているとこれからたくさんの樹を切っただろう。さらにお前が殺した次の男は、猫を殺した罪があり、生きているとさらにたくさんの猫を殺したろう」
続いて、殺した相手が生きていると殺したであろう生き物を列挙する。
どうやら、殺した数より、間接的に助けた数が多いようだ。
「どうやら、お前は地獄に行くことはできないようだ」
いい話だと思ったが、何かが引っかかる。
「ただ、罪の重さがあるから、極楽に送ることはできない。自分でいくといい」
閻魔がそういうと、虚空に体が放り出された。
何もない虚無だ。どこに行けばいいかもわからない。
もしかするとこれが地獄なのかもしれない。
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