身投げ

 鳥になれる気分だった。

高揚感にみち、さながら自分が神にでもなったようだ。

自分が住むマンションは五階だが、ベランダから飛んでみようと考えた。

さすがに高層マンションなら、飛べないかもしれないが、これくらいの高さなら飛べるだろう。

ベランダに出ると柵から体を乗り出す。夜風が頬をなぜる。

下を見ると、アスファルトで覆われた地面が見える。

ふわふわする意識のなか、柵に足をかけると、夜の中飛び出した。

重力が全身をつかみ、加速をつけて地面に近づいていく。

加速がましていく。いずれ体がアスファルトにたたきつけられるだろう。

手を鳥のように羽ばたかせた。

すでに数分、数十分は落ち続けているだろうが、いっこうに体がアスファルトに叩け付けられることはない。

ただひたすら、落ち続けている。鳥になれたのか?

空を飛んでいる感じはない。ただ落ち続けていた。もう感覚として数時間立つ。

落下はいつ終わるのだろう?

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