地下街の迷宮

 毎日の仕事の帰り、JRから地下鉄に乗り換えるときに地下街を通る。

最近は、疫病の影響か人通りも少なくなっているが、それでも人は多い。

老若男女色々な人が歩いているが、すれ違うだけでお互い興味を示さないのはいつものことだ。

毎日決まった経路で帰るのも味気ないと考え、ふと道を変えてみることにした。

仕事が早く終わったこともある。

万一、道を間違えたとしても天井から下がっている道標の看板があるので、迷うことはないだろう。

いつもはまっすぐ歩くはずの道を右折した。

スマホのマップを確認しても、ぐるりと回って元に戻るだけだ。

しばらく歩くと、地下街の店はことごとくシャッターが下ろされている。

景気の悪さがよくわかる。

人通りも少なくなり、明かりが明滅したりし始めた。

電力の供給に問題があるのだろうか?

一瞬、めまいが襲ってきた。

疲れがたまっているのだろうか? 目を擦る。

何か違和感がある。

周りにめっきり人がいない。

いくら歩いても、道が続いていた。

十字路に差し掛かる。道を示すはずの看板は何もない。

おかしいと思い、スマホをみたが、圏外になっている。

歩いても、歩いても、同じ十字路にでてくる。

周りをみても、まったく見覚えがない。

時計もないので、時間もわからない。


足がくたびれるほど歩いたが、状況は変わらない。

恐怖に襲われて、走り出す。

息が切れるほど走ったが、例の十字路に戻ってくる。

悲鳴を上げると、急に肩をたたかれた。

「どうしました? 急に立ち止まって、ご気分でも悪いのですか?」

初老の紳士が声をかけてきた。

そこは、右折する前、最初の十字路だった。

紳士には大丈夫と告げ、今度はまっすぐ歩きだした。

次からは、地下街で道を変えることはやめることにする。






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