連れ合いの写真

 線香の香りが部屋に漂っている。

仏壇の前に正座し、遺影に手を合わせた。

数十年も連れ添った連れ合いの姿が映っている。

立ち上がると古い平屋は軋む音を立てた。

部屋の壁には父母、親戚の姿が映った色あせた写真がかかっていた。

人生はあっという間だった。もう少しで自分も連れ合いのもとに行くだろう。


そう思うと、目が覚めた。

寝起きでもやがかかっている頭で、自分は夜勤でバイトしている貧乏学生だということを思い出した。

夢の中はリアルで、老婆になっていたのを思い出す。

壁の写真もありありと思い出せるが、知っている親戚は一人もいない。

家にも全く見覚えがない。


夜勤のバイトは、朝の五時で終わりだ。

閉店十五分前に一人の客がきた。

見覚えのあるような気がする老婆だった。

とても、このような店に来るとは思えないような高齢者だったが、

まったく見覚えがない人物ではあったが、変に心に引っかかるところがある。

老婆が、注文した料理を食べ終わると、閉店間際だった。

老婆はうっかり、代金を忘れてしまったので、取りに帰るという。

店長に相談すると、危ないのでついて行くように言われた。


老婆の家は近かった。見覚えがある家だ。

どこだったろう?

申し訳ないので、お茶でもどうぞといわれたので、

家にお邪魔することにした。

線香の香りが漂う。

通された部屋に仏壇が見えた。

写真が飾ってある。

あれは連れ合いの写真だ……。





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