立ちどころに願いがかなうなら

 突然のことだ。

目の前に神様が降りてきた。

白髪頭で、白いひげを伸ばした老人で、仙人のようなローブを身に着けている。

白い服には金の十字が刺繍されている。

どの宗派なのかは謎だ。

居間でソファに座っていたときに突然目の前に現れたので、驚いた。

靴は履いていない。そのあたりの配慮はあるようだ。

「わしは神である」

予想通り、神様はこちらを睥睨してそういった。

こちらはソファに横になっているのだから、見下ろされることになるのは仕方ない。

どうしようかと悩んでいると、神様はお前の願いを立ちどころにかなえてやろうという。

何故、自分だけが特別に願いが叶えてもらえることになるのか?と尋ねる。

自分だけが特別とかは詐欺の常とう手段だ。

特別に選ばれたとかなら、お引き取り願おう。

特別ではない。全世界の人間に同時に同じことを言っているという。

さすがは神様だ。それなら、安心だ。願いをかなえてもらうことにした。

「お前がねがったことはたちどころにかなうだろう」

金が欲しいと願ってみた。

すると、大金が目の前に現れた。

これはすごい。しかし、そもそも金が欲しいのは物を買うためだ。

願いがすぐにかなうなら、金など必要ない。

新品のゲーム、パソコン、見たこともない食べ物と願うだけでなんでも現れた。

もしかして、寿命をつかっているのかと神様に聞くが、特に対価はないという。

神様は笑みを浮かべて姿を消した。

空腹になる。おもっただけで、食べたいラーメンがあらわれて、箸も現れた。

しかし、なぜ食べる必要があるのか?

次からはすでに満腹になっていた。うまい物を食った記憶だけが残る。

これは楽だ。

だんだん、願う前に願望は実現するようになっていた。

眠くなってきた。

……。


やがて、世界中の人間は静かに眠りについて、動く者はいなくなった。

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