古びたビデオ

 亡くなった父の遺品を整理していた。

実家は古く、庭に大きな蔵があった。

蔵には子供のころに入ったくらいだ。

日の当たらない倉はかび臭いにおいがした。

電気は通っているようで、電灯はついた。

きしむ音を立てて倉の二階にあがる。

積み上げられた箱を開けてみると、いらなさそうな服やらおもちゃばかりで、まとめて捨てることにした。

ふと、隅に古いビデオデッキが置かれているのを見つけた。

今では全く見ないβという規格だった。

デッキの近くには、ラベルの張られていないビデオテープが一つ転がっていた。

興味がわいたので、ビデオテープとデッキを家に持って帰ると、テレビにつないでみた。

幸い、実家のテレビは古くデッキをつなぐことができた。

最近のテレビはHDMI方式でビデオをつなぐことはできなくなっている。

昔のビデオは特定のチャンネルに映像を割り込ませる方式で、大体2chだった。

ガチャガチャとチャンネルを回し、ビデオを表示させた。

砂嵐で何も映っていなかったが、やがて室内が表示される。

どうやら、この部屋らしい。

いつ撮影したかわからないが、うっすらとセピア色に画面は染まっていた。

何かおかしい。

というのも写っているのは、今のこの部屋で、テレビを見ている自分の背中だ。

柱の傷や、かかっている写真も全く同じ。とても昔に撮影されたとは思えない。

テレビから扉を開けた音がした。

ビデオの映像を見ていると、部屋の扉を開けて、男が入ってきていた。

見覚えがあるような男だ。年は六十歳から七十歳くらいだろう。

慌てて振り向いたが、現実の部屋には誰も入ってきていない。

男は振り向いた自分を指さして、満面の笑みを浮かべた。

「やっと出られる。助かったよ」

男がそう言うと、急に周囲が真っ暗になった。

「次に誰かがビデオを見るまで、そこにいることになる。精々祈るんだな」


気が付くと同じ部屋にいた。

テレビは何も映していない。

慌てて部屋の扉を開けた。そこには虚空が広がっている。

誰かが再生するまでここにいるとしたら、恐ろしいことになる。

もしかしたら、βデッキ自体再生できなくなっているかもしれない。

大声で叫んだが、声は闇に吸収されて消えた。


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