歯に挟まった髪

 口の中に違和感を覚えた。

何か細い糸のようなものが舌にあたる感触が断続的に襲ってきた。

口を開けた拍子に髪の一本が入り込んだのだろう。

トイレの鏡に向かって口を開けると細い髪が一本、舌に乗っかっているのが分かる。

指でつまもうとするが、なかなかうまくいかずだ液まみれでねばつくことになった。

苦心して髪をつかむと、引っ張ってみた。

途中までは口から取り出すことができたが、なぜか歯の間に引っかかったのか、最後までは口から毛を追い出すことができない。

指に力を入れて髪を引っ張ると、ずるずると髪が伸びてきた。

三十センチくらいはあるだろうか?

おかしい。最近は自分の頭は寂しくなっていてこんなに長い髪はないはずだ。

さらにずるずると口から髪がはい出てくる。

引きずられるように数十本の髪が口からはい出てきた。

吐き気を催すような感触に襲われた。

数百、数千は吐き出されただろうか。

一気に流し台は毛でいっぱいになる。

完全に口から毛は零れ落ちた。

鏡で口の中を見る。毛はないようだ。

ふと、自分の頭が見えた。

寂しくなっていただけだった頭は、いまや完全に禿げ上がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る