どんな駄作でも称賛される方法
大阪の日本橋でパソコン部品の買い物を行った後、混雑を避けて裏道を歩いていると、マンション近くの公園内で露店をみつけた。
どうやら、本を売っているようだ。
ちょっとした気分転換になるかもしれないと思い、露店を見てみた。
どうやら自費出版の本を売っているようだ。
大判の本が二十冊くらい平積みされている。
売っているのは白髪頭で、ボロボロの服を着て、歯も抜けかけた初老の男だ。
立て札を見ると、本の値段は五百円とある。
本の売人である男は、こちらをみてにんまりと笑った。
調子はどうかと聞くと、堰を切ったように聞かれてもいないことまでしゃべりだした。
大体は、自慢話で自分がどこそこの裕福な出の高名な血筋で、一流企業に勤めていた。という話だ。
会社の上司がちょうどこんな自慢話をしてくるため、対応は慣れている。半ば聞き流しながらうんうんとうなづいて応対する。
自費出版同然で大金を使って本とおまけを作ったので、是非買ってほしいと男はいう。
さらに、今本を買ってくれると、おまけで栞がつくそうだ。
栞はすでに本に挟んであるとかいう話だ。これも縁かと思い一冊買うことにした。
なんでも、一人一冊までで二冊は売らないらしい。
ただし、続刊がでたらまた売るとかいう話だ。
そんなに制限するほど大した本には思えないが、そういう売り方なのだろう。
チラシもくれる。どうやらSNSもやっているようだ。A4のチラシにはそのSNSのアドレスが書いている。
本の感想をぜひそのSNSに挙げてくれるように男が懇願してきた。
気が向いたらと答える。
感想がたくさん来たら、続刊も考えるという。
代金の五百円を払うと、手を振ってその場所を離れる。
男のすえた匂いが鼻に残った。
家に帰ると本を開いて読んでみる。
内容は話にもならない出来で、日記とも、自慢話ともつかない。
さらにどこかの本の内容をそのまま引用したような愚にもつかない文章ばかりだった。
数ページ読んで、捨ててしまおうと思ったが、挟まれている栞をみて気が変わった。
チラシでもらったSNSのアドレスにアクセスし、感想を返す。
まれにみる着眼点の切り込みの鋭い内容とかそんな当たり障りも内容もないほめ文章を書きこんだ。
どんな愚にもつかない本でもほめることはできる。
続刊を望むという文で感想を締めくくる。
案の定、賞賛する文章がたくさんSNSには投稿されている。
百人くらいは書き込んでいるようだ。
数日後、続刊の発売が決まったとSNSに記載があった。
前と同じく栞がおまけにつくようだ。
発売日は休日だ。
朝いちばんについた日本橋の露店には、今回は行列ができている。
みんな本を待ち望んでいるようだ。
本をほめたたえる声が列のあちこちから聞こえてくる。
数時間待って本を買って帰った。
今回も挟まれている栞をとると、本はゴミ箱に投げ捨てた。
栞には一万という数字と、日本銀行券と書いていた。
本に挟む以外に色々使い道はありそうだ。
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