奇妙な味の果実

 最近、何を食べても砂をかんだような味しかしない。

病院にいっても、特に問題はなく精神的なものと言われた。

心療内科で治療を受けてみたが、味覚は治らず、食事は作業になり、栄養の事を考えて毎朝サプリを流し込むだけになった。

次第に体は弱り、めまいが起こるようになってきた。

職場と家を通うだけで、何もやる気がでない。

会社からの帰り道、駅に向かう道すがらにみつけた露店で、赤い果実が売られているのを見かけた。

キャベツや、セロリの中にポツリと見たことがない果実が置いてある。

甘い匂いが伝わってきて、口の中に唾液があふれた。

中年のおばさんである店員に果実の名前を聞くが、首を傾げた。どうやら知らないらしい。

とにかく、買ってみることにした。値段は思ったより安かった。

帰路の途中で、赤い果実をかじってみた。売れた果実は割れて、赤い果肉があふれている。

かじってみると、甘い。ただ甘味の中にわずかに塩気が混じっている。

口元から赤い汁がしたたり落ちた。

変わった味だ。こんな果実は食べたことがない。

一気に食べきる。

しかし、味が戻ったのはその一度だけ。

他の食べ物はやはり、砂をかんだような味だった。


もう一度、味わいたい。

そう思った。


 何も食べられず、骨と皮になり、会社も退社してしまった。

果実を売っていた露店は見かけたが、目当てのものは売っていない。

売り子のおばさんに聞くと、そんなものみたことがないという。


 道をあてどなくさまよっていると、例の果実がたくさん実っているのを発見した。

見たこともない樹の頂点に一つだけ果実は実っていた。

樹の高さは自分の背と同じくらい。

不思議なことに、樹は歩き回っている。

樹は歩き回るものだったろうか。

どうでもいい。手近な実の一つを持っていたナイフを使って刈り取った。

悲鳴が辺りに響く。

赤い汁を滴らせて、果実にかじりつく。

うまい。この味だ……。

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