叫ぶ女
健康のために仕事帰りは一駅歩くことにしている。
同僚の一人が同じ電車をつかうため、いつも一緒に一駅あるいていた。
広い車道の脇にある歩道を、今日の仕事について、とりとめもない話をしながら、歩いていると、ちょうど薬屋の前を通った時に、ふと目の前に女が歩いていた。
後ろ姿だが、髪はふり乱れ、春先だというのに冬場で切るような厚いコートとマフラーを身に着けていた。
周りの人はその女をまるで存在しないように歩いていた。
同僚と話しをしながら、ちょっと嫌な雰囲気を感じて歩く。
駅の入り口である地下道はすぐそばだ。
ゆっくりと歩くその女の脇を、二人分の距離を開けて横切る。
わずかにその女の顔が見えた。狐のように目が吊り上がり、どこを見ているかわからない。
数歩、その女の前にすすみ、地下道の入り口の近くに来た時、
女が絹を裂くような、奇声を張り上げた。
しかし、誰も反応しない。
同僚との話に戻るため、一瞬、女から目をそらし、話が途切れた時、ふと女の方を振り返った。
女は煙のように消えていた。
同僚は、そんな女は見なかったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます