叫ぶ女

 健康のために仕事帰りは一駅歩くことにしている。

同僚の一人が同じ電車をつかうため、いつも一緒に一駅あるいていた。

広い車道の脇にある歩道を、今日の仕事について、とりとめもない話をしながら、歩いていると、ちょうど薬屋の前を通った時に、ふと目の前に女が歩いていた。

後ろ姿だが、髪はふり乱れ、春先だというのに冬場で切るような厚いコートとマフラーを身に着けていた。

周りの人はその女をまるで存在しないように歩いていた。

同僚と話しをしながら、ちょっと嫌な雰囲気を感じて歩く。

駅の入り口である地下道はすぐそばだ。

ゆっくりと歩くその女の脇を、二人分の距離を開けて横切る。

わずかにその女の顔が見えた。狐のように目が吊り上がり、どこを見ているかわからない。

数歩、その女の前にすすみ、地下道の入り口の近くに来た時、

女が絹を裂くような、奇声を張り上げた。

しかし、誰も反応しない。

同僚との話に戻るため、一瞬、女から目をそらし、話が途切れた時、ふと女の方を振り返った。

女は煙のように消えていた。

同僚は、そんな女は見なかったという。


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