記憶の河

小さいころは九州に住んでいた。

トイレは汲み取り式という今ではもう絶滅しているかのような住まいだった。

蜂の巣とかも家にあったりして、たまに蜂に刺されていたりした。

その当時、家の近くに川があり、割ときれいな水が流れていた記憶がある。

川には蛙とかも住んでいて、夜中には蛙の声が聞こえてきた。

川はどこから流れてきているか、どこに流れているかはわからない。

川上まで歩いたことがあったが、川は切れ目なく続き、夕暮れにあきらめて家に帰った記憶がある。

自分が成長するにつれ、清らかだった川の水は濁り、汚水が流れるようになっていた。


実家をでて、上京し川の事は忘れていた。

いつものように、車に乗って通勤していると、強烈な振動と共に何かに激突するような衝撃が全身に加わった。

事故った。本能的にわかる。

意識が暗転する。


目を開けると目の前に懐かしい田舎の川が広がっていた。

川は濁らず、清らかなまま。ただ、川の向こうには深い闇が広がっていた。



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