死に際の顔

 連日賑わっている似顔絵描きの人がいる。

予約でいっぱいで、書いてもらうのは数年待ちとか言う話しだった。

なんでも、死に際の顔を描いてくれるということで、人気があるらしい。

年をとった安らかな顔なら長生きできるというわけだ。

友人の一人とそのような話でもりあがった。

そのときは、ばかばかしいと思っていたが、ふと興味がわいたので、予約をしてみようと思った。

寿命がわかると、人生設計はたやすくなる。

考えてみると、お金を貯めるのも、健康に気をつけるのも、いつ亡くなるかわからないからだ。

たとえば、明日、亡くなるとしたら、お金を今日中に使いまくり、健康に気をつける必要ない。

老衰で亡くなるとしたら、これも同じ、年寄りのまま生きるとわかっているので、摂生する必要もない。

いいことしかない。

その友人は、寿命がわかるのは怖いので、行く気はないという。

この辺の価値観は人それぞれだろう。

寿命がわかるなど眉唾物だが、万一ということもある。

嘘でも、話しの種になるだろう。


 予約は、ネットで簡単に行うことができた。

何故か自分の写真をあげる必要があるので、自撮りした写真をアップロードした。

数年くらいは待つつもりでいたが、キャンセルがあったとかで、順番が数日で回ってきた。


 指定された日付に絵をかいてもらいに出かけることにした。

絵描きがいる場所はうらぶれた町外れで、とてもテナントが入っているように思えない、さながら廃ビルのようなところだった。

薄汚れたエレベータをつかって絵描きのいるフロアに向かう。

人がいると思ったが、その気配がない。

繁盛しているのかとおもったが、意外だった。


 受付に名前を告げると、中に通された。

予約は通っていたようだ。

黒いフードをかぶり、顔を半分くらい隠した絵描きが椅子に座るように告げた。

死に際の顔を描いてもらえるのかと問いを投げると、絵描きはうなずいた。

人がいないのはなぜかと聞いてみると、今日は実は休みだが、自分のために店を開けたのだという。

なんでも、自分の観相に興味があるらしい。

まれにみる相だとか、興味がないので聞き流してしまったが、そんなことを言っていた。

促されるまま座ると、絵の具のにおいが漂ってきた。

絵筆をとると、慣れた手つきで似顔絵を描いてくれた。

代金を払うと、似顔絵を受け取る。

その顔は、今の自分の顔を同じだ。

これは、すぐに死期があらわるのか? 絵描きに問うたが、まったく答えが戻ってこない。

自分で考えろということだろうか?


 もしかして、だまされたかと思いながら帰る。

ただ、絵からはいい知れない迫力がある。

自分が死ぬと仮定したほうがいいだろう。


そう思い、享楽にふけり、散財に走った。

しかし、死は訪れず、百年ほどたった。

家もなく、金もなく、当時のままの姿で、自分は転々とさまよい続けている。

一体いつ、死がおとずれるのだろう……。

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