バレンタインデーのチョコ

今付き合っている女が、俺が住むアパートを訪ねてきた。

そういえば、今日はバレンタインデーだ。

それで、わざわざチョコを持ってくると連絡があった。

そろそろ、この女とは縁を切りたいと思っていた。というのもすでに次の女ができていて、いい加減うっとうしくなったからだ。


今のところ、浮気はばれてはいない。

どうやって別れるかと考えているところに、女の方から現れた。

これは、いい機会なので、この辺で縁を切るか。

そんなことを考えていると、今の女が四角い箱を差し出してきた。

赤い色の包みでラッピングされた箱で、リボンで飾られている。

これがチョコなのだろう。わずかにラッピングの放送から甘い匂いがした。

もはや、顔をみるのもうんざりしていたが、一応笑顔で受け取る。

促されるままに、箱を開ける。

さらに中にはスティールの箱がある。

何も考えずに開けてみた。

軽い音を立てて、蓋が開く。

箱の中からは、大量の小さい黒い物が、あふれる。

これは、色でこそチョコレート色だがこれは台所によくいるあの虫だ。指先に乗るくらいの大きさの中には、二回りも大きいものもある。

嫌な羽音をさせて、そいつらは俺の体中にまとわりついた。

叫び声をあげてのけぞる俺を、女は突き飛ばした。

受け身をとることもできず、フローリングの床に背中から倒れこんだ。

したたか背中を打ち付けて、呼吸が一瞬できなくなった。

「あんたが、私の親友と浮気しているのはばれているのよ!」


突然の弾劾じみた告白に言い訳しようと思い、立ち上がろうとしたが、

足に激痛が走る。

立ち上がれない。

罵詈雑言の限りをつくして喚いた後、さらにしたたか俺を蹴飛ばし、

家じゅうのグラスや、花瓶やら、あらゆるものを投げつけられた。

狙いはそれたものもあるが、運悪くいくつかが頭に当たる。打ちどころが悪かったのか、吐き気がする。足が、全身が動かない。

声もでない。


うめき声をあげてのたうっていると、カサカサと嫌な音を立てて、箱に入っていた黒い物が俺の顔にへばりついた。

痛みと、かゆみが全身を襲う。

スマホで連絡と思ったが、女が持ち去っていった。

服の隙間からも入り込んでくる。

恐怖が押し寄せてくる。

そういえば、この虫は肉も食う雑食だと思い出した。

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