自販機の代金
事故が多いといわくつきの踏切の近く、細い道沿いに小さなタバコ屋があり、その脇に自販機があった。
自販機といっても、売っているのはジュースでなく、カップ麺で二百円を入れるとカップ麺がでてきて、蓋を開け、ボタンを押すとお湯がでる。
チキン、カレーとノーマルと味も選ぶことができた。
ふとした用事でその道を通り、小腹がすいたのでカップ麺を買ってみることにした。
カップ麺が出てきたと同時に釣銭の返却口に大量の百円玉が出てきた。
驚いたが、周りを見渡すと、街灯が道を照らすだけで、カメラもない。
カップ麺にお湯を注ぐと、釣銭をいただくことにした。
ちょうど、お金がなかったので、ありがたかった。
百円玉を数えると千円はある。
儲かったと内心ほくそえんで帰ることにした。
しばらくして、同じ道を通ると、相変わらず自販機があった。
またお金がでてこないかと、悪しき期待とともにカップ麺を買った。
お金が出てきた。
ふと、自販機に張り紙があった。
『盗みを働いたやつ。見ているぞ』
という脅し文句があった。
辺りを見渡すが何の気配もない。
電車の音が遠くから近づいてくる。
線路を電車が走り、通り過ぎていく。
お湯をいれて出来上がったカップ麺を備え付けのフォークを使って食べる。
コンソメの味が舌にしみわたった。
盗むなといっても、頼まれもせず、お金が出てくるだけだ。
特に罪悪感もなくお金をもらっておくことにした。
それどころか、お金に困ると、何度もつり銭をいただいていた。
数年たって、自販機の事を忘れかけていたある日、ひさしぶりに踏切近くを通りかかると、タバコ屋は閉店していた。
ややさびが入ってはきているが、自販機は普通にあった。
くたびれた張り紙がはがれかけ、風に揺らめいている。
またお金が出てくるかと、百円玉を二ついれ、カップ麺をかった。
何も出てこない。
壊れているのかと思い、釣銭の返却レバーを引いたが何も起こらない。
張り紙が風にはためき剥がれ落ちた。
不自然に張り紙が舞い上がり、一瞬視界を奪う。
ふらつくようにたちあがる。
足下に硬いものがあたる。
線路だ。何故か踏切の線路の上にいる。
遮断機は下りていた。
けたたましい警笛の音が響く。
避けるまでもなく電車が突っ込んでくる。
強烈な衝撃が全身を砕き、骨が砕ける音が響いた。
顔から剥がれ落ちた張り紙が宙を舞う。書かれた文章が目に付く。
『代金はきっちり、いただくからな』
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