死の間際に後悔しないには……。

苦労して駆けずり回ってようやく内定をとることができた。

はじめて社会にでて、難しいこともあったが、あらかた楽しく暮らすことができていた。

頭の中でいつもよぎるのはこのままでいいのだろうか?

という疑問だ。

今は若いが、いずれ年をとる。

そんなことを気にしていると、二十代で後悔しない生き方という本を書店で見かけた。

なんとなく、手に取りぱらぱらとめくった。

そこには、自分の葬式を想像し、それまでの過程をかんがえてみようということだ。

その本を購入し、その夜、寝る前にさっそく書いていることを実行してみた。

自分の葬式を思い浮かべる。

子供、孫が泣きながら参列してくれている。

会社の上司が、自分のことをいい部下だとほめてくれた。

親戚があつまり、自分の死を悼んでくれている。

今の自分は独身だ。

まず、結婚しないといけないだろう。

三十までには結婚し、子供を作り……と、未来絵図が頭に浮かぶ。

そのことを紙に書き、その日は眠りについた。


次の日、今まで通り出社する。

朝、いつもの通り、道を歩き、横断歩道を渡った。

すさまじい勢いで車が突っ込んでくる。

暴走した車に跳ね飛ばされて、したたかアスファルトに体をたたきつけられた。

血が体から抜けていく。

寒い。

歩道には人が集まり、遠巻きにスマホで写真を撮っている。

声がでない。

遠くから、もうだめだ。助からないぞ。という声がする。

自分の人生はなんだったのだろう?

薄れゆく意識の中、最後に見たのは、曇天模様の空だった。

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