手招きする祖母
祖母に育ててられた私はおばあちゃん子だった。
田舎をでて東京で暮らすことになったが、毎年のように帰郷して祖母に会いに行っていた。
祖母の実家は九州にある片田舎で、海が見える場所にあった。
海は年々汚れており、帰郷のたびに悲しい思いをしたものだ。
東京でアパレル関係の仕事をして、忙しい日々を送っていたある日。
実家から、祖母が事故にあったという知らせがあった。
慌てて帰郷したが時すでに遅く、祖母はなくなっていた。なんでも青信号を渡っていると、信号無視して突っ込んだ車に跳ね飛ばされたらしい。
通夜と葬儀ではあふれる涙と、嗚咽をこらえていた。
それから、東京に帰ると仕事帰りに車道を挟んだ向こうの歩道に見慣れた影が見えるようになった。
車にはねられたときの姿の祖母の姿が揺らめいて消えた。
きっと、祖母が見守ってくれていると思い、元気を出さないといけないそんな風に自分を鼓舞していたある日。
いままでただ立っていただけの祖母が手招きした。
目の前の信号は青だ。
私はあわてて飛び出すと、うっかりつまずき、よろめいた拍子に、たたらを踏んでしまった。
その目の前を猛スピードで信号無視してきたトラックが突っ切った。
顔に車体が触れるか否かの距離、風圧で体がよろめく。
向かいの歩道の祖母の影を見た。
見たこともない形相でこちらをみて、声は聞こえなかったが、口がこう動いたのがわかる。
「お前も同じ目にあえばよかったのに!」
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