邂逅

「私は、王国に復讐がしたいのです!」


「ほぅ」


 私の言葉を聞いて、ドウゲンさんはそう呟く。あまり、驚いたりなどはしていない様子だ。


「まあとりあえず、入りなさい」


「は!?まじかよ師匠!?」


 シデンさんがドウゲンさんに食いつく。どうやら二人は、師弟関係らしい。


「さあ、こちらに」


 ドウゲンさんに手招かれ、私は足を進める。とりあえず話は聞いてもらえそうだ。シデンさんには相変わらず睨まれているけど。


 木と藁で出来た簡素な家だけれど、どこか暖かかった。感覚を感じない床に腰掛けると、向かいにドウゲンさんとシデンさんも腰掛ける。最初に口を開いたのは、ドウゲンさんだった。


「ロコといったね。君はどうしてここにきた?王国に復讐をしたいのなら、王宮に行くのが一番ではないのか?」


「そ、それは、、」


 私はドウゲンさんに、ありのままを全て話した。もともと村に住んでいた時に、ドウゲンさんを見たことがあること、家族ともども無実の罪で処刑されたこと、自分だけが幽霊の身となってこの世にとどまったこと、そして何より、幽霊の身でありながら生きている人間に憑依したり、呪ったりなどができないこと。


「なるほど、それでここにきたわけですか」


 ドウゲンさんは状況を理解してくれたようだ。シデンさんには相変わらず睨まれているが、気のせいかさっきよりも視線が重くない気がする。


「だが、そんなこと本当にあるのかよ、師匠」


「目の前で起きているではありませんか」


「そりゃあ、そうだけど、、」


「ロコさん。私も長く浄霊師をして来ましたが、あなたのような魂は見たことがありません」


 ドウゲンさんは、目を輝かせているように見える。


「あなたのような魂に出会えるとは…」


 どこか、嬉しそうだ。


「で、でも私何も出来なくて…」


「そんなことはありません」


 ドウゲンさんが、私の目を見て言った。


「あなたは、シデンの浄土詠唱を受けてももろともしなかった。あなたは、非常に強力な力を持った魂に違いないと思います」


「わ、、私が??」


 そうは言われたものの、全く信じられない。確かに、王国を恨む恨みの力ならば誰にも負けない自信はあるけど、それがすなわち霊としての力になるのだろうか。


「私の推測ですが、まだあなたは力を使いこなせていないのでしょう。私でよければ、お力を引き出すお手伝いをさせて頂きますが」


 私が思ってもいなかったことを、ドウゲンさんは口にした。幽霊に味方する浄霊師なんて聞いたことがない。


「はあ!?冗談だろ師匠!」


 シデンさんもまた、私と同じ考えのようだった。


「浄霊師とは元来、霊魂を穏やかな光で包み、極楽浄土へ案内する、その手伝いをするものなのです」


「そりゃあ、、まあそうだけど、、」


「私たちは、あなたの味方ですよ」


 私は幽霊ながら、うれしさで涙が出そうな思いを覚えた。



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政略結婚後、婚約破棄され処刑された私は、幽霊となって復讐する 大舟 @Daisen0926

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