あの日

「皇太子様の命により、貴様らを拘束、処刑する」


 王国兵の一人が、確かにそう言った。私は反射的に、叫びながら言った。


「ど、どうしてですか!私たちは殺されるようなことなど何もしていません!」


 お父さんとお母さんも、続けて叫ぶ。


「信じてください!私たちは本当に何もしていないんです!」


「お願いします!助けてください!」


 涙ながらの訴えも聞き入れられず、私たちは銃剣で殴られ意識を失った。


 意識が戻った時、全身に不快感を覚えた。目はかすんで、周りがよく見えない。手足は後ろで縛られていて、正座をさせられている。耳をすますと近くから川のせせらぎが聞こえる。どうやら河川敷のようだ。次第にかすみは晴れ、周囲を視認する。


「…!」


 瞬時に私は理解した。ここは処刑場だ。私の隣には両親も同じ状態で拘束されている。私たちの周り半径30メートルほどに立ち入り禁止の縄が張られていて、縄の向こうから群衆が私たちを見守っている。村の皆もいて、なにやらきらびやかな衣装に身を包んでいる。あんな高そうな服持ってたんだ…


「…う…」


「…ぐ…」


 私に続き、両親も目を覚ます。二人とも、目の前の惨状を瞬時に理解したようで、顔を真っ青にしている。

 程なくして、カサル様とカレン様が現れ、見届け席のような椅子に鎮座される。同時に、刀剣を持った王国兵三人が私たちに一人ずつ着いた。あの刀剣で、私たちは処刑されるのか。

 最初に口を開いたのは、中央に立つリーダーのような王国兵だった。


「貴様らの罪は、王国への反逆罪である。カサル皇太子様に近づいて権力を掌握し、この王国を我が物としようとした事は紛れもない死罪に当たる罪であり、刑は即刻執行されるものである」


 中央の王国兵がそう言い終えるなり、三人の王国兵はそれぞれ刀剣を構える。私が恐怖と震えで動けない中、両親が涙ながらに叫んだ。


「カサル皇太子様!どうか娘だけは!!」


「お願いしますカサル様!お願いしますカサル様!!」


 その声はカサル様に届いたのだろう。その証拠にカサル様は見るからに不愉快そうな顔になり、はやく殺してしまえと私たちでも分かるような合図を送る。それを見て、私は咄嗟に叫んだ。


「お待ちください!!!!!」


 それまで黙っていた私が突如叫んだことに怯んだのか、三人の兵は構えを少し緩めて私の方を見る。群衆も含め、皆が私に注目する。


「なぜ殺されなければならないのか、全く納得できません!」


 どうせ黙っていても殺されるなら。


「そもそも私たちには」


 思っていること全てぶつけてやる。


「反逆の意思など全くありません!!」


 私は群衆にも訴える。


「みなさん信じて下さい!!最初はカサル様の方から」


 ここで、中央の王国兵が私の言葉を遮る。


「全く往生際の悪い!貴様のような下賤な平民女にカサル様が声を掛けるはずがないであろう!」


 それを聞いて、お父さんが反射的に反論する。


「本当です!!カサル様が私たちの村にお越しになった時にお声がけを頂いたのです!」


 王国兵が、言葉を返す。


「ほう。その言葉に偽りはないか?」


 私たちは皆大きく頷く。王国兵は村の皆の方を向いて言った。


「貴様らの村にカサル様がお姿を表したとこの者たちは言っているが、それを見たものはいるか?」


 …

 

 …

 

 …

 

 皆、答えず沈黙している。ど、どうしてなの…みんな見てたじゃない…みんなでお出迎えしたじゃない…

 その時私は察した。皆が身につけている煌びやかな衣装…まさか王国は皆にあれを与えて、引き換えに黙っているよう圧力をかけたのか…そ、そんなことって……そうまでして私たちを貶めたいのか…

 私はカレン様の方を向き、目で最後の懇願を訴える。カレン様なら…カレン様なら…

 しかし、カレン様は私の目を見て悪魔のように微笑みながら、ボソッと呟いた。当然この距離では声は聞こえないが、私は本能的に理解した。途端、悔しさと悲しみ、そして尋常ではない怒りが込み上げる。感情のままに、私は最後の力で叫ぶ。


「許さない許さない!!!覚えていろ!!!絶対に殺してや」


 刹那、刀剣が振り下ろされた。










「い い 気 味 だ わ」



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