第3章 その1
痛イから跳ばなくなった。
痛イのは怖イ。
ダカラ、跳べない。
そう。痛イからシカタナイんだ。
「おい、ここさ」
トンネル内の反響が中途半端な感じの声の響きがあった。
無重力に浮遊しているような空間にいた。上下前後左右、視界が届く範囲に空間を遮蔽する障壁などはなく、淡いクリーム色の空間にいるということしか所在の確認ができなかった。
晶雄の前にはイデア、彼女の肩にプラトン。
「先輩の意識にいるんだよな」
魔女と使い魔が同時に頷いた。どうやら間違いはないようだ。だから、小林陽子の姿が見えないのは納得するしかない。
「で、Xはいるのか? ここに?」
二者がまたしても同時に頷く。
「てか、なんでお前たちはさっきから黙ってんだよ」
イデアが指を、プラトンが羽根を向けた。
「あ?」
眉をしかめて、後ろを振り向く。人体模型が体を反らしていた。「見よ! この柔軟性」とでも言いたげに、ケタケタと顎を動かした。
「!」
晶雄も同じように体を反らした。後ろの正面に骸骨がいたら、絶叫もままならない。反射とは恐るべき身体能力である。
その人体模型が腕を伸ばす。整体の勉強でさんざんと解剖学において骨格を見てきたが、ここに至ってまさに現物を目の当たりにしている。書籍にしろ、それそこ標本にしろ、それは動かない物体だから、冷静でいられるが、ここにいるのは動く骨である。生々しいというか、グロテスクというか。それを怖いというのだろう。
晶雄は退けようにも、あっけにとられて動きが緩慢になる。
「晶雄さん!」
こここそ! 炎やら水やら風やら雷やらを放出させる魔術の使用場面なのではなかろうか。にもかからず、イデアがしたこと。杖を振り回しながら突っ込んできた。そんな攻撃を狡猾な骨格がまともに喰らうはずはなく。あっさりと跳躍による回避。そこへプラトンが追撃。それをブリッジして回避する骨格。体を直して額をぬぐうしぐさをしたということは、イデアの攻撃よりもプラトンの攻撃の方が奴にとっては危うかったということになる。
それを悔しそうに見ていたイデアは、体いっぱいに力を込めてから、
「巨大化します!」
大の字に伸び上がった。
「ダメだっつうの!」
イデアの脇から手を通して首の後ろで両手を組んだ。プロレス技でいうフルネルソンである。
「先輩の意識ん中で、んなことしたどうなる? 俺には予想がつかんが、きっと良くないだろ!」
きっと晶雄のイメージでは、小林陽子の体内にミクロ化して侵入した、といった辺りなんだろうが、
「体内はこんな色しとらんだろ」
プラトンの正論に納得はするが、イデアのやけくそみたいな戦法を承認するわけにはいかない。
「てか、この人体標本は一体何? どっから湧いて来た?」
「Xが変化したようだ」
「つうことは、あの標本とっ捕まえて、X某をどうにかするのが先決なんだよな?」
「そうだ。何か策でもありそうな顔つきだな、晶雄」
「ああ、あるさ」
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