第4話 生きている理由

どうにもならなくなった時は、

生きていること自体に価値があると信じること。

     加藤諦三より


「うぅ~。夜の学校って、なんだか怖いよね」

「そうだな、いつもは鬱陶しい人だまりも、こうやって静かになってみると必要な空間って感じがする。」


祐一とハルは音をたてないように、忍び足で廊下を歩く。

懐中電灯で廊下を照らして足元を確認する。


「今時、懐中電灯で肝試しってのが笑えるな。」

「余計怖さが増すよ~、何かあったら助けてね。」


ハルは涙目になりながら、祐一の腕をつかむ。

「わかった、わかった。お化けが出てきたらお前を差し出して俺は帰る。」

「ひどい、ひどいよ、祐一…。」

祐一は涙目のハルを引き寄せ、廊下を進んでいく。


二人が目指しいてるのは理科準備室。

理科準備室に用意してある宝物をスタート地点に持ち帰る、というのが肝試しのコースだ。

肝試し、ということだが、実際はただ誰もいない学校。

お化け屋敷でもなんでもないので、多少怖い夜道の散歩のようなものだ。


「私、ほんとお化けとか、幽霊とかそういうの無理だから…祐一、お願いね。」


祐一は思う。

こういうのはズルいよな。

肝試しで幽霊が怖いって言って、女の子が涙目で引っ付いてきたら…

どんな奴でもかわいく見えるよな。


「OK、お姫様。俺が守ってやるから、離れるなよ!」

自分で口にして、今のは恥ずかしかったなと後悔したが、

ハルが思わず破顔したのでまあよかったことにしておこう。


吊り橋効果といわれるものだろうが、

極度の緊張にさらされるとストレスと恋愛感情を混同しやすい。

まさに、肝試し、というイベントはこれに当てはまる。

今回の肝試しイベントは、進展しない二人の関係を見かねて秋子が用意したものだった。

秋子の狙い通り、二人の関係は友達を進展したものとなりつつある。


「到着!さてさて、お宝はどこだろうな。」

「ん~秋ちゃんのことだから、分かりづらいところに隠しているに違いないにぃ。」


「うげげ、蛙のホルマリン漬けだ…気持ちわる…」

「こっちは、人体模型…こんなの授業で使ってたかなあ…」

二人は準備室の棚を懐中電灯で照らしていくが、宝物は見つからない。

「うーん、宝物なんて実はなくて、何か持って帰ればいいってことなのかなぁ?」

「そうかもしれないな、秋子が宝物は何かっていうのは特に言ってなかったしな。」

祐一は宝物を探すのをあきらめ、蛙のホルマリン漬けを持ち帰ることにした。

「えぇ~、祐一君!?それ、それ、なのかな??」

「秋子が何が宝物なのか言わなかったのが悪い。」

「あうぅ~、いいのかなぁ…」

「あいつらをびっくりさせてやろうぜ~!」

二人は蛙のホルマリン漬けを持ち、教室を後にする。


懐中電灯で足元を照らしながら、廊下を進んでいく。

階段に差し掛かったその時。

「ねえ」

と後ろから声をかけられた。

祐一は思わず驚き、懐中電灯を落としてしまう。

踊り場を照らす電灯。

光の先に、女性の足が照らし出された。


「…誰?」

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