第14話 立方体

 まず、一つの立方体が宙に浮いていた。いや、厳密には、その立方体意外に空間という概念が存在しえなかったので、ポツンと映る立方体が全てであったと言える。もっとも、視覚的に認識すれば、周囲に何もない領域が広がっているようにも感じられたので、やはり面の中にある一点と仮定した方が判り易かったの事実だ。


 立方体の上に新たな立方体が生えてきた。上や下もないかもしれないが、その後の広がり方を考えれば、上と解釈した方が良いと思う。


 ぽこん、ぽこんと立方体がその数を増し、瞬く間に、そびえたつ塔が誕生した。立方体の大きさは均一だったけど、上へ追加される度に微妙に位置がずれていたので、凸凹した少し不格好な形状だ。


 暫しの間、立方体の集合体である塔は無風の中にいた。ところが、立方体は自らの周囲に空間を創造する熱量を有していたらしい。徐々に、立方体を中心とする、これもまた立方体型に広がっていく大気の層が生み出されていった。


 大気が生まれれば、温度差が発生し、気流が発生する。すると、立方体の塔はぐらぐらと揺れ出した。もともとが不安定に積み重なっているものだ。既に、全体を支える力にほころびが生じている。


 とうとう、塔は崩れた。大気の創造の過程で同時に創り出されていた重力によって、立方体たちは下へばらばらと落下していく。唯一、風に煽られても微動だにしなかった立方体の底辺の周囲に狭い地面が形成されており、その地面に向かって大量の立方体たちがなだれ込んできた。


 轟音がした。大気は風と重力と共に、音も創っていたらしい。大量の立方体を受け入れるには、地面は狭すぎた。そのため、立方体たちは自らの居場所を確立させるべく、大気の層を外側に向かって押し広げていった。


 塔の残骸だった立方体たち。それは今や、広い大地に散りばめられた、形ある創造主であった。創造主たちはそれぞれが大気の層を限界まで拡張させ、他の立方体たちとは異なる世界の中心となった。


 何時しか、それぞれの立方体の周囲には、それぞれ異なる世界が創造されていった。


 大地という基盤を得たことで、その上に万物が成り立つ。創造された万物もまた、立方体の備えていた世界創造の力の片鱗を有していたので、世界は更に膨張していった。

  

 隣り合う世界が同時に膨らんでいく。お互いが押し合い圧し合う。すべての世界の集合体は延々と大きくなり続けていったので、世界の創造には歯止めがなかった。


 果たして、このまま無限に広がり続けるのだろうか。かつての立方体だったものは、今や空間に溶け込んで形を認識できなくなっている。


 そのことを思うと……何故だか、寂しい気持ちが溢れてきた。

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