第11話 散りばめられた星

 サラサラと、青い砂状のものが辺り一面に散らばる。それは瞬く間に一帯へ広がっていき、さざめく海面を演出した。


 個体によって形成された海は、徐々に液体のように滑らかな流れを創り出す。風にさらされ、天の星々の明かりを反射してキラキラと白い光の入り混じったコンストラクションは、優美な調べとともに心の中に染み入ってくる。


 藍色の空にはハンモックを連想させる逆さ月が浮かんでいる。上空の気流によって、星の合間を灰色の煙が絶えず形を変えている。小さな島を足場にして眺める夜景は、煌く夢幻の世界であった。


 ぼくはリンデと手をつないだまま、島から飛び立つ。全身に風の抵抗を感じたけど、向かい風はあまり強いものではなく、むしろ離れることのないぼくとリンデの結びつきを実感させてくれた。


 風によって、幾つもの鈴を一斉に鳴らしたような音色が海面全体で響き渡った。それはある一定のリズムを奏でており、風と青い粒子の旋律に合わせるように、リンデの甘く優しい声が夢幻の世界へ広がっていく。まるで、この世の事象を労わっている風でもあった。


 暗い虹色のカーテンが現出する。前後に向かって複雑な動きを繰り返し、万華鏡の如き光の粒子が上下に向かって吹き出し、大輪の華を放射状に描いた。


 極光が揺らめき、時の牢獄からの解放を望む魂たちの叫び声が、重なり合う様々な意思を押し出す。悲哀に満ちた怨嗟の声に、ぼくは恐怖を覚えた。


 リンデがそっとぼくを抱きしめる。リンデの温もり。美麗な世界の住人に相応しい彼女という存在が常に傍にいてくれるという幸福を噛み締める。


 この世は多種多様な意識に満たされている。意識は無数の星、一つ一つに閉じ込められ、己の存在を主張するように、他とは異なる色彩の輝きを放っていた。


 幻の中へ埋没するのを望む星は少ない。ある星は自らの影響力を誇示し、別の星へ語り掛け、時にはその星の光を呑み込む。


 競い合う星、共存する星。それは一定ではなく、幾たびも立場を変化させ続けている。ぼくには、とても恐ろしいものに感じられた。


 でも、今、抱き合っているリンデはぼくに道を示してくれた。リンデの指さした先には、ぼくとリンデの意識の細かな動きを映し出す鏡面と化した水平線が映っている。


 リンデがいてくれる。安心する。あらゆる恐怖も、戸惑いも、ぼくを支えてくれるリンデの前では些細な変化に過ぎない。


 だから、ぼくはリンデに感謝しているんだ。ぼくという存在を見つめてくれてありがとう、リンデ。

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