第5話 おはよう
温かい日差しが顔に当たっている。目覚めたばかりでまだ眠たいけど、そろそろ起きなければならない。
ぼくは布団に入ったまま大きく伸びをする動作を繰り返した。身体中に新鮮な血流を循環していくのを感じ、心地よさが全身を駆け巡っていく。
顔を横に向けると、視線の先にあるのは今日の日程を淡々と悟らせる時計の針。秒針は睡眠を妨げないほどの無音で時を刻み続けている。
時計の方に手を伸ばす。目覚ましのベルはあと五分ほどで鳴るところだったけど、こうして目が覚めた。スイッチを下げて今日の役目を終えさせてやった。
窓の方を見やると、カーテンの隙間から差し込んでいる日差しに照らされるリンデの姿。リンデは椅子に腰を下ろし、交差させた両手を膝の上にちょこんと乗せていた。
リンデはずっと……ぼくの目覚めを待っていてくれたんだ。至福の朝。それを送ってくれたリンデへの愛おしい気持ちでいっぱいに満たされる。
「おはよう」
おはよう。
リンデはくすりと微笑んで、ぼくの顔を見つめてくれた。気づけば、リンデの視線はぼくの頭の辺りに向いている気がする。
ぼくは自らの頭髪を片手でさすった。
(あ、寝ぐせ……)
ちょっと目立つくらいのものだろう。
少し整えたら。
「うん」
ぼくは布団から這い出す。肌寒さを感じたので、すぐ横に近づけてあった椅子に置かれている服を手早く着る。服は冷えていたけど、これで幾分マシになった。
電気ストーブの電源を入れる。それがぼくと共に夜間の休憩を終えた合図となり、朝の活動に適した温度が段々と提供されていった。
洗面所の明かりをつけ、鏡を覗き込む。案の定、寝ぐせがはっきりとついていた。シュッシュッと霧吹きをかけ、ドライヤーで温風を当てる。肌を熱せられ、ミントの芳香が鼻孔をくすぐった。
ブラシを頭皮に当て、さっと滑らせて髪を整える。鏡を見て、自分の顔を確かめた。
ちょっと、やつれた表情だ。こんな顔でも優しく出迎えてくれた彼女のためにも、もう一度、活を注いでやる必要がある。
ぼくは空っぽの洗面器を取り出した。外側は少し汚れがこびり付いていたけど、内面は滑らかな光沢だ。蛇口をひねってお湯を溜める。それを両手ですくい、パシャパシャと顔にかけた。
乾いたハンドタオルで顔面をゴシゴシとしごく。水気が取れたところで、眼をパチパチと瞬かせる。
すっかり……冴えてきた。頭の中もスッキリし、今日という一日に対する意欲を得ることができた。心機一転で洗面所から出る。
ふふ。見違えたね。
「ありがとう」
だらしないぼくもよく知っているリンデだからこそ、今のぼくのことも真に理解してくれた。
さあ、今日も新しい一日が始まるんだ。
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