5話 トリプルデート2
露木さんと2人で歩き始めて10分、私たちは遊園地エリアの奥にある触れ合い動物園のエリアにやって来た。
「露木さん! 豆柴がいますよ! ウサギも羊も、ポニーまでいます!」
「ビルマニシキヘビっていう3㍍超えのヘビもいるらしいぞ」
「ヘビも可愛いですね。大きいと少し怖くも感じちゃいますけど」
「ヘビとの触れ合いは今はしてないらしいから、ガラス越しに見るだけみたいだ。まあ、見るだけでも圧巻だろうから桜也にヘビを見せてやりたかったんだけどな」
「ん? どうして桜也さんに?」
「あいつ、は虫類が苦手らしいんだ。海の生物も苦手らしいんだが、そっちは触れないだけで見るのは好きって言ってたけど、爬虫類は見るのも嫌なんだと。いつも穏やか好青年の桜也が本気で嫌そうにしてる顔、いつか見てみたくてな」
「悪趣味ですね…。まあ、桜也さんみたいな落ち着いた感じの人の表情が崩れるところを見てみたいっていう好奇心は分かっちゃいますけど…」
「だろ? 広瀬も桜也が嫌がる顔を見てみたがってるって、桜也に言っとくよ。これで広瀬は共犯な」
「そんなこと思ってませんよ。私は、普段その人が見せないような表情を見てみたいと思う好奇心に共感しただけで、桜也さんの嫌がる顔が見てみたいだなんて思ってませんから、共犯じゃないです。というか、そんなこと言ってたら桜也さんに怒られますよ」
「…」
「露木さん? …もしかして、既に怒られてたり…?」
「皆でここに来るって決まったときに『一緒にヘビを見に行こう』ってしつこく絡んだら、心霊スポットとして有名なトンネルの前に置き去りにされかけた…」
「心霊スポット?」
「ああ、うちの演劇サークルが今年の学祭でオリジナルのオカルト系の舞台をやることになってて、メンバーで手分けして資料集めをしていてな。俺と桜也が県内と隣県の心霊スポットの写真を撮ってくる役目だったから車で回ってたんだけど、その道中で絡みまくってたら最後の目的地のトンネルで俺が写真を撮っている間に桜也が車を発進させて置いて行かれるっていう報復を受けた。すぐにUターンして戻ってきてくれたんだが、俺が車に乗り込んだときにいつもの笑顔で『次は本当に置いていくからね』って言われて、本気で肝が冷えたよ…」
「ものすごくちゃんとした報復を受けてるじゃないですか…。なおさら無理にヘビを見せるのは辞めたほうがよさそうですね」
「いや、でも一度火がついた好奇心は、なかなか止められないよな…」
「全然懲りてないんですね」
「困ったことにな…」
そう言って目を細めた露木さんとふいに視線が重なって、唐突に今朝の芙佳さんといつき君の姿を思い出した。私は、なかなか名前で呼べないのもそうだけれど、芙佳さんのように自分からスキンシップを取りに行くこともできない。目を合わせることすら満足にできない。それは露木さんが大好きであるが故なのだけれど、大好きだからこそ、このままじゃだめだと思う。
手を繋いでみようかな? だけど、急にそんなことをしたら露木さんを驚かせてしまわないかしら? いきなり過ぎて引かれない? いや、いつもこうやって行動する前からいろいろ考えて、結局何もできないで終わるじゃない。1歩踏み出すには、とにかく行動あるのみよ。
私は、自分の右手をそっと露木さんの左手に寄せて、緊張で手が震える前にパッとその手を握った。
自分から露木さんに触れたのは初めてな気がする。どんな反応をされるのか不安で、露木さんのほうは見ることができずに彼の言葉を待った。
だけど、露木さんは何も言わない。手は握ってくれているけれど、私は恐る恐る露木さんを見た。すると、露木さんの横顔が見えて、その頬はほんのりと赤くなっている。私が露木さんを見ていると、彼も私を横目で見て、緩く握り合っていた手をしっかりと強く握り返してくれた。嫌がられてはいないみたい。良かった。
今なら言えるかな? 「章人さん」って…。
「あの、私、豆柴と遊びたいです。…章人さん!」
言った。言っちゃった! 口にした瞬間から心臓のバクバクが止まらない。当然、彼のほうを見ることができない。すると、強く握られていた手がするりと離れ、私が反射的に立ち止まった瞬間、両肩に手が置かれ、後ろから彼の震えた声が聞こえてきた。
「…ヤバいな…。想像以上に嬉しい…。なあ、これからは章人さんってずっと呼んでくれる感じですか?」
てれたような嬉しそうな彼の声、初めて見る彼の反応…。私も、想像以上に嬉しいかもしれない。
「はい、これからは章人さんって呼ばせてください」
「じゃあ、約束通り、俺も広瀬って呼ぶのは終わりにしないとな。
よし、行こうか。翔菜!」
章人さんは、ポンと私の両肩を叩くと、隣に戻ってきて私の手を取り笑った。
「はい、行きましょう。章人さん」
私もしっかりとその手を握り返して微笑むと、2人で再び歩き始めた。なんだか、心の中のもやが晴れてすっきりした感じがする。ひよちゃんが言っていた通り、一度名前で呼んだ後は案外すぐに慣れることができそう。
そうして、私たちは豆柴との触れ合いコーナーにやってきた。小さくて愛らしい豆柴たちがちょこちょこと元気に動き回っている様を眺めているだけで頬が緩む。私と章人さんは、触れ合いコーナーの壁に沿っていくつか配置された低めのベンチに隣り合って腰を下ろした。すると、2匹の豆柴が私たちのほうにかけてきて、そのうちの1匹は元気にベンチに飛び乗ると、私の膝に両前足を乗せてこちらを見上げてきた。そっとその背中を撫でると、その子は両前足を下ろして私にぴったり寄り添うようにしてベンチに横になった。その子の背中を撫でながら、もう1匹の様子を見ると、その子はベンチには上らずに章人さんの足下でじゃれていた。章人さんも目を細めてその子を見ている。
「可愛い。章人さん、なつかれてますね」
「翔菜もな。ほら、この子は首に白いバンダナを着けてるから、翔菜とおそろいだな」
章人さんの言うとおり、ここにいる豆柴たちはみんな首に色違いのバンダナを着けていて、彼の足下にいる子は白いバンダナを着けている。私のリストバンドに結んだリボンと同じ色だ。
「本当ですね。こっちの子は緑ですよ」
私の隣にいる子は緑色のバンダナを着けていて、ずっとおとなしく私に撫でられている。
「桜也とおそろいか。なんか落ち着き払って人に寄り添ってる感じも、どことなく桜也っぽいような」
私と章人さんから一気に視線を向けられた緑バンダナの豆柴は、伏せていた顔を上げて私たちを見ると一瞬首をかしげて見せた。その様子を見て、私と章人さんは揃って笑ってしまう。
「あ、あそこに赤いバンダナの子がいますよ。近くに紫のバンダナの子もいる」
私が、なんとなく緑のバンダナの子から視線をそらすと、視界の端に赤いバンダナを着けた豆柴が見えた。その子を見ると小学生くらいの女の子が転がしたボールにじゃれついて遊んでいるところだったのだけれど、近くにいた紫色のバンダナの子に隙を突かれてボールを盗られてしまった。
「なんでだろうな。赤い豆柴には紫の豆柴に負けないでほしいと本気で応援したくなったよ…」
どこか遠い目をしながらそう言う章人さん。無意識に章人さんと芙佳さんに置き換えて眺めてしまったことは、章人さんには黙っておこうかな…。苦笑いしつつ再び辺りを見渡すと、今度はオレンジ色のバンダナを着けた豆柴と青いバンダナを着けた豆柴が追いかけっこしながら私たちの目の前を通り過ぎていった。
「あっちは、橘姉弟とおそろいか」
「あれは、オレンジの子が青の子を追いかけ回しているように見えるんですけど、ひよちゃんといつき君に似ているかもしれませんね」
「俺は、まだまだあの2人のことは知らないことが多いが、なんか想像がつくな」
私たちがまた揃ってフッと吹き出すと、章人さんの足下にいた白バンダナの子が章人さんの足に向かって跳び跳ね始めた。膝に乗せてほしいみたい。ここではお客さんが豆柴を抱き上げることは禁止されているので、章人さんがベンチから降りて芝生の上に腰を下ろし、白バンダナの子が自力で膝に上れるようにする。すると、白バンダナの子は、尻尾を振って章人さんの膝によじ登った。ベンチに飛び乗った緑バンダナの子に比べて、白バンダナの子は運動が得意ではないみたい。それでも一生懸命に章人さんの膝の上に上る姿はとても愛らしい。
「お、よくがんばったな。偉いぞ」
なんとか登り切った白バンダナの子を撫でながら、章人さんはとても嬉しそうで、見下ろす私も頬が緩む。白バンダナの子と章人さんを見るのに夢中になっていると、私の膝の上にも緑バンダナの子がよじ登ってきた。撫でるのを止めてしまったから、膝に乗ってアピールしているのかな? 再び撫でると、私の膝の上で眠り始めた。
その後、緑バンダナの子も白バンダナの子もなかなか離れてくれず、私たちも可愛い豆柴たちを無理矢理膝からおろすことができなくて、豆柴の触れ合いコーナーにかなり長居してしまったのだけれど、章人さんがズボンのポケットに入れていたスマホに着信が入り、バイブレーションに驚いた白バンダナの子が章人さんの膝から飛び降りて、章人さんは立ち上がるとスマホを確認して私に断りを入れてから耳に当て、ベンチから少し離れたところに移動した。
通話中の章人さんのことを気にしつつも、私は緑バンダナの子に膝からおりてもらって、ベンチから芝生に移動して膝をついた。緑バンダナの子と白バンダナの子がまた近づいてきてくれたので、両手で2匹を撫でる。撫でていると、膝と腕の間から別の豆柴が1匹、私の膝によじ登ってきた。その子を見ると、先ほどの赤バンダナの子で、私はなんだか嬉しくなる。章人さんが白バンダナの子を見て私とおそろいだと言ってくれたように、私も赤バンダナの子と章人さんがつながって見えて、そんな子が私のところに来てくれたのがなんだか嬉しい。そう思って頬が緩んだとき、章人さんが通話を終えてこちらに戻ってきた。
「お待たせ。モテモテだな」
「赤バンダナの子がこっちに来てくれたんですよ。この子もすごく可愛いです」
赤バンダナの子は、私の膝の上でちょうど章人さんのほうを見てお座りしている。
「確かに可愛いけど、めちゃくちゃ俺をガン見してくるのはなんなんだ?」
「赤色仲間だなってことじゃないですか?」
「にしては、目つきが冷たい気がするんだよな…。おい、この人は、俺の恋人なんだぞ?」
章人さんは、私に向かい合う位置に膝をつくと、赤バンダナの子の顔を覗き込みながら顎の辺りを撫でて言う。
私は、章人さんの言葉に思わず笑ってしまった。
「ワンちゃん相手に焼き餅ですか?」
「いくら可愛くても、翔菜の膝の上で我が物顔でこっちをガン見されたら、なんか挑発されてる気分になるんだよ」
少しすねたように言う章人さんを見て、私の胸がぎゅっと捕まれる。章人さんもすねたりするんだ。いや、本気ではないんだろうけれど、いつもより子供っぽい表情が可愛い。
「私は、赤いバンダナのこの子が膝にのってきてくれて、どことなく章人さんに重なる子が自分のところに近づいてきてくれたのが嬉しかったですよ。赤色をつけているってだけで、可愛さが倍増して見えますし」
赤バンダナの子を見ながらそう言って私がふと顔を上げると、同じように赤バンダナの子を見ていると思っていた章人さんも私を見ていて、真正面から至近距離で視線が重なる。
「あ、いや、その…。私、何を言ってるんでしょうね…」
自分でも何を言っているのか分からなくなったのと、急に視線が重なったのとで焦ってしまい、私は頬を熱くして赤バンダナの子に視線を戻す。
「いや、分かるよ。俺も白バンダナの子と翔菜が重なって、すごく可愛く思えたし、なついて側にいてくれてすごく嬉しかったから。
それと、赤バンダナに嫉妬する必要なんて一切ないことも分かった。この子には、目が合う度に翔菜をテレさせることはできないだろうからな。というか、翔菜が目を合わせるのを恥ずかしがるのは俺が相手のときだけだしな」
「え!?」
「なんだ? まさか気づかれてないとでも思ってたのか? 俺とふいに目が合う度に赤くなってうつむいてるだろ?」
「あんまりはっきり言わないでくださいよ…。すぐに目をそらしてしまうこと自体は気づかれていると思っていましたけど、テレて目が合わせられないってところまで知られているとは思ってなかったんです。断るごとに目をそらしちゃって嫌な思いをさせているだろうなとか、感じ悪く思われてないかなってことばかり考えて、早くちゃんと目を見られるようにならないとって私なりではありますけどがんばってみたりとか…」
「ああ、まあ家庭教師してたときは、誰が相手でも目を合わせるのが苦手なタイプの子なのかなって思ってたけど、付き合い始めて他の人と接している姿を見るようになってそうじゃないって気づいて、最近は俺から目をそらすとだいたい赤くなってるから、目が合う度にドキドキしてくれてるってことなのかなーって思ってな」
「ダメですよね…。いつまでもこんなんじゃ…」
私は、つい本音が漏れてしまって、ハッとして口を押さえた。私が急に動いたせいで、赤バンダナの子が膝からおりて走って行ってしまった。つられるようにして緑の子も白の子も私たちから離れていく。
「ダメなんてことないけど、とりあえずここを出ようか。歩きながら話そう」
優しく言って起ち上がった章人さんに手を引かれて、私たちは触れ合いコーナーを出た。歩き出したはいいけれど、何を話せばいいのか分からずに私は口を開くことができない。無言のまま少し歩いて、章人さんが口を開いた。
「さっきの話だけど、俺は別に気にしてないぞ。翔菜がテレやなのは何もダメなことじゃない。むしろ、すぐにテレて赤くなるのは可愛いし、それだけ俺を好きだと思ってくれてるんだなって分かりやすく実感できて嬉しいし」
「だけど、私は恥ずかしがってばかりで章人さんに何もお返しできてません。章人さんはちゃんと私を見てくれるし、言葉や態度で気持ちを伝えてくれるのに、私からは何も…。芙佳さんみたいにまっすぐに堂々とできたら、章人さんも喜んでくれるのかなって思うけど、全然上手くできないし…」
どうしよう。こんなこと、章人さんに言うつもりなかったのに、ぽろぽろと言葉がこぼれてしまう。
「翔菜は牧みたいになりたいのか?」
「芙佳さんが積極的にいつき君にくっついていくのを見て、同じようにはなれなくても、好きな人に対して堂々と素直に接することができる姿勢は見習いたいなって思いました。いつき君もすごく嬉しそうだったし、章人さんもあんな感じで腕を組んだら喜んでくれるのかなって」
「うーん…。嬉しくないことはないだろうけど、そういうのは、とっちから仕掛けてもいいと俺は思う。例えば、恋人つなぎをするときに、俺から指を絡めるのも翔菜から指を絡めてくれるのも最終的に感じる幸せは同じ。とっちからどうってことよりも、そもそも翔菜と恋人つなぎをしてもいい関係性なんだってところに幸せを感じるからな。
それに、確かに牧は積極的なタイプでいつき君もそれを嬉しく思っているだろうけど、それはあの2人の個性であって、同じ恋人って関係性でも、あの2人の関係性が俺と翔菜にとっての最適解とは限らないと思うぞ。現に、俺は牧には申し訳ないけど、常に積極的な女性より翔菜みたいにテレやで少し不器用な女性のほうが好きだしな」
普通に握られていた手は、いつのまにか指を絡め合った恋人つなぎに変わっていた。
「私、せっかく章人さんと恋人になったのに、恋人らしい距離間になかなか慣れなくて、章人さんに我慢をさせてるんじゃないかって不安だったんです…」
「翔菜が思う恋人ってどんなものだ?」
「え?」
「例えば、恋人関係といっても肉体的なつながりを重視する人もいれば、精神的なつながりさえあればいいと思う人もいる。2人の間で恋人という関係性に求めるものが極端にズレていたら、その2人は別れてしまうか、お互いが無理に我慢し続けないといけないわけだろう? だけど、少なくとも俺たちの恋人に対する価値観は大きくズレてはいないと俺は思う。だから、せっかくだしこの機会にお互いの価値観を知っておくのもいいかなと思ってな。お互いの気持ちを知って、それをすり合わせていけば少なくとも今の翔菜が思っているようなどちらかがどちらかに『我慢をさせてしまっているんじゃないか』っていう不安を感じることはなくなるんじゃないかな」
「…私の価値観…。私は、恋人なら、精神的なつながりも大切だと思いますけど、やっぱりスキンシップも大事だと思います…」
手をつなぐと嬉しい。時々章人さんから触れられるのも嬉しい。付き合い始めて2カ月と少し、本当はキスだって1度くらいしていてもいいんじゃないかと思う。それ以上のことは、さすがにまだ早いと思うけれど…。これが、私の価値観? 私、キスをしたいと思っていたの?
「俺も同じ。翔菜を好きだって気持ちを大切にしたいし、翔菜の気持ちも翔菜自身も大切にしたいと思ってる。でも、恋人同士じゃないとできないことも翔菜としていきたいと思ってる。それで、スキンシップに関しては、男性が女性に合わせるべきだと思うんだ。女性は男性よりも自分の身体を守るために警戒心が強いことが多いし、もしものときに背負うリスクも女性のほうが大きくなるだろう? だけど俺はそれを我慢させられているなんて思わないよ。翔菜のペースに合わせるから、焦らなくていい。
でも、俺は完璧な紳士じゃないから、時々欲が出て翔菜に触れることもある。ちゃんと断りを入れるから、まだ気持ちが追いつかない間ははっきり断ってくれていい。そんなことで嫌いになるなんてあり得ないし、俺は待つのが当然っていう価値観だから『我慢させて申し訳ない』とかも思う必要はないからな」
章人さんの言葉の1つ1つが、私の心を縛り付けていた不安と焦りを解いていくのを感じる。そうか、私は焦っていたんだ。「章人さんに我慢をさせているんじゃないか」なんて思いつつ、真の本音では自分の欲求に行動が追いつかないことがもどかしくて焦っていたんだ。章人さんに本音を漏らしてしまった直後は激しく動揺したけれど、結果的にきっかけがないと話せないような話をすることができて、張り詰めていたものが解けたから、よかったのだろう。
それなら、背伸びをするのはやめて、私の気持ちに正直になってみようかな? 自分の気持ちがはっっきりした今なら自然に言えるかもしれない。
「分かりました。章人さんの考え方を聞けて、すごく安心しました。
それで、あの、章人さんがしたいと思ったことは、全部ちゃんと教えてほしいです。もちろん、章人さんが言ったとおりに無理して全部を受け入れるようなことはしないので。私、章人さんが手をつないでくれたり触れてくれたりするの、すごく嬉しくて、好きだから…」
「!? …本当にやばい…。可愛すぎる…」
「章人さん? 今なんて言いましたか?」
「分かったって言っただけだよ。まあ、これからはお互いに我慢せずに気持ちを伝え合えるような関係性を目指していこうな!」
「はい!」
絶対に「分かった」以外のことを言っていたと思うけれど、見上げた章人さんが耳まで真っ赤になっていたので、追求は諦めた。すごく恥ずかしいことを言ってしまったけれど、高まる体温をすーっと涼しい夕方の風が優しく冷やしてくれるおかげで、私にしては落ち着いた気持ちで章人さんの隣を歩いている。
トリプルデート中の別行動、最初はどうなることかと思ったけれど、「章人さん」って呼べるようになったし、たくさん話して心の距離がぐっと近くなった気がするし、別行動を提案して実行してくれた芙佳さんとひよちゃんに感謝しなくちゃね。
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