レンチンは手抜きレシピに含まれますか? ~ポテサラマウント老害に癒やしを~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

ポテサラマウント老害

「ねえねえ聞いてよぉまい! うちの舅ってヒドいのよ! この間スーパーのポテサラがおいしそうだったから、お夕飯で出したのね。そしたら舅がさ『ポテサラくらい自分で手作りしろ』だって! 死んだ姑なんて、ずっと手作りだったぞって!」


「はい。大変ですね」 

 

 黒羽くろは まいは、友人の主婦から相談を受けていた。


「こっちは共働きで、料理を作る暇なんてないっての! ダンナはわかってくれてるんだけどさ、舅は頭が硬くて。あーもう思い出すだけでもムカついてきた! ねえ舞、ギャフンと言われせられない?」


 料理アドバイザーの仕事をしている舞は、「わかりました」と応える。


「では私が、その亡きお姑さんの料理を再現致します」

 

 スーパーで、食材を買い込む。

 友人がくれたメモには、舅の亡くなった妻が作ってくれていたという料理が書いてある。


 その日の夕方、友人宅にお邪魔した。

 舅に料理を振る舞う準備を始める。

 その間、舅には孫の面倒を見てもらうため、「近所の公園で遊んでいてくれ」と頼んだ。

 友人の夫も付き添う。


 家族が帰った頃までに、テーブルに大量の料理を並べた。


「いやあ、料理上手の黒羽さんのお話は聞いていました。お噂通り、実においしい」



 舅は、舞の料理を絶賛する。



「ゴハンもふっくら。中華スープも枝豆も、どれも絶品だ。嫁も見習ってもらいたいモノだ」

「お褒めにあずかり、光栄でございます」


「特にこの、ポテサラが気に入った! ホクホクで、マヨネーズとの塩梅もバランスいい。死んだ妻の味を思い出すよ」


 トリックが分かっている友人が、クスクス笑っていた。


「ぜひともこの出来損ないの義娘に、レシピをお教えいただけないだろうか?」



 

「全部、冷凍食品です」



 

「……はあ!?」


 案の定、舅は驚愕する。


 友人の夫も、目を丸くしていた。

 

 

「先ほど申したとおり、この食卓に並んでいる料理は、全て『レンチンで作った冷凍食品』なんです」


 舅は、箸が止まる。


「ば、ばかな。冷凍食品如きに、こんなおいしい味が出せるわけがない! どこか味気ないはずだ!」


 立ち上がった舅が、首をブンブンと振った。


「ですが、これが事実です」


 

 近頃の冷食は、健康管理も十分調節されている。

 電子レンジの進化に伴い、味も確保されているのだ。



「だが、妻の料理とうり二つだなんて!」



「冷食は、おいしく作られているのです。奥様の生きていらした当時から」


 

「それじゃ、妻はずっと」



「はい。あなたに冷凍食品を食べさせていらしたのです」

 


「そ、そんな」


「そんな? 愛情が籠もっていらしたのは、事実でしょ?」


 舞が、厳しい意見を口にした。


「奥様は、料理が苦手だったそうですね?」


「ああ。お嬢様で、包丁を握ったことがなかったと言っていた。それが、急に料理がうまくなってびっくりしたよ。事情を聞こうにも、決して語ってはくれなかったが」


 これでようやく、舅にも謎が解けただろう。


「あなたを嫌っているなら、外で食べに行っていたと思いますよ。決して、一緒に食卓すら囲みたくはなかったはず。でも、そうではなかった。あなたがおいしいといってくれることがうれしかった。だから、言い出せなかったんです」

 


 舅が黙り込む。


「本当に大事なのは何を食べたかじゃない。誰と食べたかです。奥様は、あなたと一緒に食事を取っていて、幸せだった。それでいいじゃありませんか。あなたは、息子さん一家と食事をして、楽しくないのですか?」


 舞が問い詰めると、舅は顔から剣幕が消えていく。


「現に、あなたはお嫁さんが買ってきたポテサラも、文句を言いつつ平らげたと聞きました。何を口にしたかなんて、結局のところは関係ないと思いますよ?」

 

 

「そうだな。あんたの言うとおりだ」


 舅は黙々と、冷凍食品を口に運んでいった。


 友人だって、「ざまあみろ」という表情にはなっていない。


 おそらく、今後は楽しい食卓となるだろう。


「ありがとう舞」


「またトラブルがあったら呼んでくださいな」

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