決着
「では始め!」
ノーガンが鋭く宣言すると、最初に動いたのはレオンだった。目にも留まらぬ速さでジェインに向かって迫り、木刀で突きを繰り出す。その突きの一つ一つに迫力があり、ジェインは受けることも出来ず、ひたすらにかわしていく。
しかしジェインは避けながらもレオンから目を離さず、一つ一つの動きをじっと眺めていく。
「ふん、逃げるだけとは。それがアーノルド家のやり方か?」
レオンは挑発するような言葉を投げかける。
しかし私は彼の声を聞いて気づいた。彼はいつも相手を威圧するときは低い声を出すのだが、今の声はいつもよりわずかに上ずっている。ということは、レオンは内心焦っていて、ジェインの動きを乱すためにあえて挑発しているのではないか。
が、ジェインはそんな言葉に惑わされることもなく、右に左にと回避を続ける。
気のせいか、そんなジェインの回避動作はだんだんと小さくなり、無駄がなくなっていく。
「くそ、男なら一撃ぐらい剣を合わせてはどうだ!」
そんなジェインにレオンははっきりと苛立ったように言う。
今度の台詞からは彼が焦っていることが他の者にも伝わったのではないか。
そんなレオンに対してジェインは冷静に答える。
「分かった。ならば次の一合は受けてたとうではないか」
「喰らえっ!」
その言葉を聞いた瞬間、レオンは渾身の力を籠めて木刀を振り降ろす。レオンは特に膂力には自信があり、彼と打ち合えば同年代であれば誰であっても打ち負かされるだろう。
だが、ジェインはそれを真っ向から受け止める。
ゴツン、という鈍い音とともに二人の木刀が交わり、ジェインの木刀が手から落ちる。
が、ジェインの動きは止まらなかった。
素早くレオンの懐に入ると、そのまま腹に向かって拳を突き出す。もしかするとさっき木刀を落としたところまでは計算の内だったのかもしれない。
「うっ」
レオンはくぐもった悲鳴を上げ、木刀を取り落とす。
それを見てジェインは自分が落とした木刀を拾い直し、レオンに突き付けた。そしてレオンは身動きがとれなくなる。
「勝負あり!」
それを見てノーガンが短く叫んだ。
それを聞いて見物していた貴族たちも皆、割れんばかりの喝采をジェインに送り、ジェインはほっと息を吐くのだった。
敗北したレオンは最初はじっと唇をかみしめていたが、やがて足早にその場を離れる。法的に決まっている婚約に無理に異議を唱えて決闘を挑んで負けたという事実はこれまで評判が良かった彼にとって大きな打撃となるだろう。
私はその場に残ったジェインの元へ歩み寄る。
「私のために戦ってくださってありがとうございます」
するとジェインは真剣な目で私の方を向く。
「確かにこの婚約にはいろいろと納得のいかないところも多かった。だが、僕は実際に君と会って話して、人生を共にしたいと思う人物であることを確信した。その思いには揺るぎがないと誓うよ」
「はい、私も他の誰でもなくジェイン様と共に生きていきたいです」
相手がジェインだったからこそ、レオンに立ち向かい、妹や母の我がままにも屈しないという決意をすることが出来た。
だから今後は私がそんなジェインに少しずつ恩返しをしながら生きていきたい。
私はそう決意する。
「ありがとう」
そう言ってジェインはそっと私の唇にキスをした。
「正式な結婚式までに、僕も君にふさわしい男になれるよう頑張るよ」
「はい、私もです」
こうしてたくさんの貴族たちに祝福され、無事私たちの婚約は認められたのだった。
我がままの代価 今川幸乃 @y-imagawa
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